2018年10月17日
泥人形(4) 串田孫一
しかし、幼い子供が遊んで帰ったあとには何か残っている。ポケットに入れそこねたハンカチだの、チューインガムだの、ビスケットの粉などが、翌日の朝椅子をうこかしながら掃除をしている時に見当って、何故かふとまた胸が詰りかけそうになる。
こんなことを書いている自分にしても、小さいころ、他人の目のないところで物をこわした経験は当然あるはずだが、おびえながらそれを言いそびれ、忘れるように努力をしたので、今どんなことがあったと思い出さないのだろう。篤子さんの娘さんも、泥人形をこわしたことをもう思い出しはしない。そうして時折、洗いものをしながら瀬戸ものをこわすようなことがあったにしても、しまったと叫んでそれで終りにしているだろうと思う。ママはよくこわすねなどと子供に言われているかも知れない。