2018年10月26日
捨てる(3) 佐藤東洋麿(横浜市)
梅本さんは私が五十歳のころ横浜国大に採用された。書類を眺めてあまりの業績の多さに驚いたが、ちょっと心配になって、まだ東大総長でなかった蓮實重彦さんに電話で、
「学生の面倒見は大丈夫ですか?」
と尋ねると、学習院大の仏文科で非常勤をしているが問題ない、とのことであった。
蓮實さんはパリで博士号を取り、一方で映画評論の重鎮であり、梅本さんとも旧知の間柄だ。こうした想いが押し寄せてくると、この文庫本は捨てられない。そしていずれにせよ、石川啄木の一首が蘇る。
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買いきて妻としたしむ