2018年11月9日
切抜の整理(5) 尾崎一雄
人間は、その慾の深さでここまでのし上って来たわけだから、あながちそれをいけないとだけは思はない。しかし、しかし、もうほどほどにしたらどうだらう、とつぶやかずには居られない。私は、神に罰せられるぞ、とは云はないが、自然界の調和をそんなに性急に崩したら、きっと好い結果にはならないだらう、とは云ひたい。
だが、人間は引返さず、あるひは引返すことができず、いやアな方角へ歩いて行くだらう。そのうち走り出すかも知れない。そんなことを考へるのは、精神分裂の兆候なのか。
次の言葉が胸の中を這ひまわる。
「人間の生命は果敢ない。それならそれで宜しい。だが、我らをして反抗しつつ死なしめよ。そして絶滅が我らの命運なら、すくなくとも我らをして、これを是認するが如き行為をなさざらしめよ」(セナンクゥル)。