2018年11月19日
日記から見た伊東静雄(2) 小高根二郎
胸をはり、おだやかに、微笑し、闊達に、感覚的に……という態度は、まさに温厚明知な師表の人柄を想像させるが、ときに剃刀のごとく……一閃して変身すると、悪婆のごとく、無頼漢のごとく、博変打のごとく……悪の代表のような心構えで乱行もあえてし、ワニが尾で生き物を撃つような仮借なさで記録をとり、そこに表白された偽らぬ自己の人間像と静かに対話する……というのが、伊東の日記執筆の動機であり、楽しみであったようである。
この態度と心構えの対照的にすぎるが極めて卒直な表白は、橋川文三氏をして希有な時代を語る文学として嘆賞せしめ、昔同僚だった家森長治郎氏(奈良学芸大助教授)をして、『伊東静雄全集』における誰一の瑕瑾として慨嘆せしめたところのものである。