2018年11月20日
日記から見た伊東静雄(3) 小高根二郎
そもそも全集編纂のさい、教職にある花子未亡人が容易になっとくしないところを、桑原武夫氏が学問の神聖の立場からたっての要請をし、やっと収録された実情の秘録なのである。博文館日記とB6判雑記帳二冊の検分を了えた桑原氏は、まア……伊東が物や金を沢山貰っていることに驚ろいた、と嘆声をあげたほど嫌忌すべき行為がそこここに散見されたからである。いや、全集編纂の七年前にすでに刊行されている『伊東静雄詩集』「解説」において、「もち菓子をもってきたものには試験の点を一個につき一点ずつましてやる」と冗談らしい顔もせず教室で語った伊東の逸話を、桑原氏は書いているので、その証拠を改めて日記で確認したような思いで吃驚したのかもしれない。それとも、伊東がサロンのように楽しみにして出入りした津田家(桑原氏の親戚の豊裕な材木商)……、そこの二人の男の子は共に伊東の教え子ではあったが、養護生徒として面倒を伊東は人一倍にみた反面、当時としては莫大な贈与を伊東が貰っている事実に、桑原氏は親戚・親友のいささかむつまじすぎる間柄に、くしゃみでも催すような掻痒感を感じたからかもしれない。