2019年1月10日
伊勢訛(母) 縁(えにし)より 歌集 大き画布 西川敏子より
まだ若き母が月夜の農道で自転車習ひゐし昭和のはじめ
重き稲穂に母を憶ひぬ馴れぬ掌に鍬を握りし杳き飢えの日
シルバーシートにおさまりおれど母いまだ明治生れの気骨は失せず
伊勢で生れ伊勢で育ちし母なれば伊勢の訛は生涯抜けず
惚けざる母は哀しも病み細る指もて数ふる秋の七草
ひとまわり小さくなりし母の背と裸木の枝を揺りてゆく風
逞しき母でありしよ面影もなく病み痩せてこの夏も越ゆ
早逝の父に添ふごと墓石に母の戒名きはやかに秋