2019年1月22日
わがめぐり わがめぐり・より 歌集 大き画布 西川敏子より
夜の沼星きらめけど尚暗し着々と進む四次防計画
蛍の光消えて久しき夜の川に精霊流しもすたれてゆくか
揺れやすき心押へてゆく野辺にかく鮮らけき曼珠沙華の赤
白き花燃ゆる緋の花ものなべて影絵となして秋の陽充つる
庭に雪ふり積む朝を駆け出だす児もなくなりて日は明け暮るる
あまたのうから巣立ちゆきたる広き家に取りのこされし夫婦の会話
戦争を知らぬ児戦争しか知らざる児いずれも澄める瞳もてるに
口重く一日暮れたる厨辺に電子レンジが物云ひかくる
空が藍を大地が緑を作りたり萬彩なす地球に住まふ
球根を土に埋めゐつ浮世とふ始めと終り果さむがため
今日の夕陽ひときは朱しと記しおく耐へ得ぬほどの疼みもたねば
生も死も潮の満ち干に関はれば海は深深と藍を湛ふる
今日を生きむ為に忘るることもあり夏の夜星の恋ものがたり
身ひとりの幸願ふにはあらざれど凶のみくじは風に舞はしむ
踏み迷ふ山路の音のかそけさに姥捨ての伝説脳裡を掠む
哭き笑ひ危ふく保ち来し平安いまに想へば水泡のごとし
足早に去りてゆく僧 哀しみを蒐めし黒衣の袖ひるがへる
明滅の信号のごとき過ぎゆきよとぎれとぎれの吾が運命線
山の風野の風ふかく耳に響り眠られぬ夜の虚ろを充す
胸手足がんじがらみの線伝ふ嘘発見器のごとき心電図
黄昏の迫るまで道草せし下校いま原風景となりて涌き出づ
国中の老若男女が空を仰ぎ神秘の刻待つ金環日食