2019年1月23日
郷土 わがめぐり・より 歌集 大き画布 西川敏子より
海につづく冬の河面にきれぎれの真紅の落暉つなぎて帰る
能面の表情なせる冬の河かつて氾濫の咎をもちゐき
水路とて町史に僅か残りゐる川にまぼろしの舟がゆき交ふ
かりそめの平安ならむ刻告ぐる夕べのチャイム寒風に乗り
手で開ける電車の止まる無人駅こつこつこつと靴音ひびく
半世紀書き馴れし郡の消ゆる日よ深夜の時計十二時を指す
祈願なる千本幟はためきて詣でしわれの足も弾めり
渡船場の記憶のこれる川の岸魚より多き釣人集ふ
釣り上げし魚は一瞬空に舞ひ架れる虹の橋こえてくる
政局の混迷さながら雨後の河に暗中模索の釣糸垂るる
「しかすがの渡し」でありしは昔うつろひて
コンビニとなり深夜を灯す
苗を待つ水張りし田は夕映えて宴のごとく華やぎゐたり
田植機に活字のごとく植えられし早苗をわたる風の囁き