2019年2月14日
春夏秋冬 花鳥風月 歌集 大き画布 西川敏子より
羊雲くずれて新たな形なす空にも季節の移ろうひととき
夕風に誘はれ出でし喧噪の夜店にピンクとブルーのひよこ
節水をしきり呼びかくる広報車に枢車従きゆき寒の三叉路
古代びと龍王祀り祈りしとふ旱にかわき 春の菜をぬく
御手洗に龍の裂けたる口乾く神よ春の井湧かしめよ疾く
不可思議な減税とふを諾へず雪山枯野もはやうす闇
未来図を描くも難し春寒の夜を軋ませ門扉を閉づる
ひと生とは神より賜ふ道なるか訃をきく夕べ寒卵割る
敗戦の色濃き寒夜の防空壕にゐ寝し日もあり霜柱たつ
限りなく明るき空の下に在り主役脇役あらぬ山恋ふ
凧が笛吹きとほればうづくまる吾の裡なるマッチ売りの少女
まばたきをするのでもなき障害児春の陽ざしを顔にて掬ふ
対岸の森の翳りに魅かれつつもう引き返せない吊橋揺るる
内外に厳しき真冬木に結ぶみくじは白き花群となる
造られるものの哀しみ灯の下の冬の苺はことさら紅し
燃ゆと云うふほどにはあらぬ夕雲の赤きを写す鏡面は冬
雪割草冬の眠りの深からむ春立つ朝の白き山脈
黒きストール纏ひ出つれば冬の夜の蝙蝠となり寂しく羽搏く
新緑の鎮守の森は神さびて夏越し祓ひの茅の輪くぐり来
ぎらぎらと夏の太陽森かげの町営プールは児らのオアシス
カラフルにプール彩どり蒼天に湧き立つ児らの声透き通る
噴水は風に形を変へられて陽も乱舞せり午後の公園
中指姫 薬指姫 小指姫 創りて幼にきかす雪の日