2019年2月15日
花だより 歌集 大き画布 西川敏子より
夕されば花弁を閉づる睡蓮の冷たきまでの花のおもざし
極限の三日のいのち睡蓮は花を閉ざして水面に沈む
羽毛のごとき牡丹頬に触るるとき愛に関はる記憶を覚す
山茶花の花明りする寒の庭 杳き水子の遊びゐるやも
菜の花を黄に渦巻きて春嵐 今日の煩悩紛れゆきしや
どくだみの白き花群闇に浮き三十三年祖母の忌がくる
霜柱のびゆく闇に寒椿堕つる気配す今日の終りに
桜花散りてわれにかへれど変身もならず厨に竹の子茄でる
春愁のみなもと問はば散りしける桜の咢の細きくれなゐ
「今日無事」とふ言葉かみしめ喧噪をさけて見上ぐる夜桜浄土
表情をあまり変へざる隣家の女 朝顔 昼顔 夕顔植ゑをり
地獄花 極楽花とふ彼岸花この現世の秋を彩る
(故川出千代師)
紫陽花の季も知らずや師でありし百寿の刀自は昏々と生く