2019年3月11日
世相 世相 歌集 大き画布 西川敏子より
紫煙紅煙虚空に放つ昼花火反核デモの過ぎたるのちを
物不足うろたへあさるを戦争も飢えも知らざる若者は笑ふ
通貨危機 物価暴騰 うつうつと浅間の空に噴煙上る
ベトナムの戦火消ゆれど春闘の旗ふりたてて人は闘ふ
農業国でありし日本農捨てし人等にもくる就職難時代
受験生のための夜食をとりどりにテレビは写す平和と云ふは
黒字減らしオリンピック誘致も肯へず福祉の薄き国に住まへば
不況解雇 倒産に揺らぐ重き日々今日の希望の大き虹たつ
戦の日命つなぎて来し「すいとん」コンビニで今若者が買う
改革の難きをうべなう混濁の世も彼岸花季をたがえず
数百万の国の負債を負はさるる這ひ這ひしてゐる嬰児の背に
球児らに動員学徒の重なりて憲法九条よぎる甲子園
政変は嵐のごとし浮き沈むこの世と思ひ幕末史読む
次世代へ継ぐるは難し政治への憂ひはつのる春のいかづち
ダウンジャケット「競馬で儲けて」と学生ら談笑しつつ傍らよぎる
飢えの日を顕たせ寒夜を透りくる「石やきいも・・」飽食の耳に
槌音はいづくか家の建つらしも重きローンの枷はめられて
決勝戦果てて場内去りてゆく覇者も敗者も孤りの影ひき
甲子園の少年が打つ白球が敗戦忌にひとつの灯火となる