2019年4月4日
鎮魂(たましずめ) (西川 幾) 歌集 大き画布 西川敏子より
ハラハラと散り初めました戦没の兄の奥津城覆へるさくら
遺骨なき墓処に撒きぬはらはらと君が戦死のタクロバンの砂
しきり降る銀杏の黄葉は散華せし兄の墓処に褥のごとく
レイテ戦に散華の兄の五十回忌シベリアより帰還の弟いとなむ
兄の魂 比島の空を彷徨はむルバングより帰還の兵ありし日も
鎮まりゆく夕映の空征きしままの兄の愛機がまなうらを飛ぶ
遺骨なき兄の墓石にきわだちて香華のごとき春の雪舞ふ
編隊のさまに飛びゆく鳥の群 空に散華の兄を顕しむ
「レイテ湾上空に散る」哀しみは窮まりもなし海の夕映
集ひ来て縁者が交す忌の酒に君は遺影の青年将校
戦没者叙勲の報が忌のタベ蛍火ほどの光を放つ
(防府基地)
出撃は死への旅立ち書き残せし「一機当千」墨鮮やかに
岬より南に向きて翔つ候鳥かつての零戦はた隼も
愛機と共に沈みし兄の鎮魂歌詠ひつづけむ終れる日まで
積乱雲視界より失せて南方に飛機と果てたる兄の幻影