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2019年4月5日

鎮魂(たましずめ) 歌集 大き画布 西川敏子より

心疼く被爆記念日めぐり来て級友の墓参の日照道ゆく

聖戦とぞ若き命を散らしたり国破れたる炎暑八月

きれぎれの玉音放送聞きしより長く短し七十年は

沖縄戦の集団自決の消されゆくを抗議の民衆津波のごとし

巨き蛾の灯りめがけて羽摶けりゆゆしき八月 時の間に過ぐ

一片の骨も残されず戦死者の墓碑の群立風花のなか

兵役は至上命令 死の重さ 銃を担ぎて征きたるはたち

雪崩のごと人を戦地に送りしよ我も墓守る幾星霜を

死への使者ファントム一六戦闘機残照の空に炎の袖うちふる

言い訳をしつつ膨らむ防衛費墳墓のかたちに黒き雲湧く

空の奥処海の底ひを漂よへるいくさに奪はれしいのち呼ぶ声

海底より引き揚げられし特攻隊機かつての基地に冬の陽を浴ぶ

その深き心は知らず特攻兵のならびし遺影胸を張りをり

聖戦とは何ぞ玉砕特攻隊 人間魚雷の地獄のメニュー

死に繋ぐ戦ひの果て海底に沈船あまた印す墓碑名

珊瑚礁のはざま腐蝕の艦船に葬列のごと群れ泳ぐ魚

南溟に掲げられし髑髏 錆色の涙流しぬ温かりしと言ふ

万の死者ゆく衣ずれと思ひしに夕べ幽かに芙蓉さやげる

炸裂音いくたび耳に甦る被爆記念日仏具を磨く

炎熱の庭を這ひゐる蟻の列B29の見し死者の列

年経れどめぐれば疼く深き傷八月の陽に焙られてあゆむ

被爆忌を灯してやまず鈴なれるほほづきの赤 万の燈籠

風化さるる戦か 盆の夜の踊り 生くる証の掌をふりかざす

「無言館」に遺作の絵画あまたなり戦没画学生ら敗戦を知らず

(知覧特攻平和会館)
日の丸に寄せ書きをして出撃せし幼な顔残れる特攻隊員

出撃の前夜興じゐる腕相撲 写真に残せり涙で霞む

(小野田元少尉)

身と心鎧ひて生き来し人ならむ哀しきまでの笑顔つくれり



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