2019年5月10日
通う(4) 佐藤東洋麿
そこには二十四、五歳の娼婦が居て、暗い座敷の蚊帳のなかで扁桃腺を腫らしていたりすると、夜おそくまで「語りてかへる」。この優しさは、エリート官僚であった父ほか、彼を除いてみなそうそうたる学歴と地位にある親族には、向けられない。絶縁され、こちらからも近寄らず、自らの絶体自由を物質的に支えるのは金銭である。精神的に一体となるのは、弱い者、女だけではない、作中の「わたくし」がポンピキに女を紹介されそうになると、要らない、要らないと慌てて逃げこむのは裏町にある古本屋だ。そこの老主人から滲みでるなんとも言えない下町の情けある風情なのだ。