2019年5月21日
パルテノン(1)―ギリシャ紀行― 中河与一
カイロからキャラベルで地中海の上を飛んで、ギリシャのアテネ空港に着いた。一時間二十分の距離であった。
一衣帯水のやうなところであるが、すでに熱暑がゆるやかになり、空気が澄みとほり、何処までも遠くを見渡せるやうな明るい風土が感じられた。
街自身が何となく清潔で、ホテルの前から少し行った大通りには、アカデミーやアテネ大学やナショナル図書館などの近代建築が軒をならべ、それちの屋根の上には大きい立像の彫刻が幾つとなく青い空を背景に竝んでゐた。如何にもギリシャに来たといふ感じがした。
然し私が夢みつづけてゐたのはパルテノンの神殴であり、この町にある多くの美術館や博物館であった。それらを眼のあたりに見て何かを受取ることであった。