2019年5月22日
パルテノン(2)―ギリシャ紀行― 中河与一
翌日の朝、先づベナキ美術館で近東の織物や陶器を見、それからデオニソス劇場の遺跡の方に廻った。そこの入口では工事が初まり、モメントの袋や大きい石がゴロゴロしてゐて、その間で人夫達が動いてゐた。
見あげるやうな回廊を入ると、扇形に高く三方にひろがった半円形の大理石の観覧席が見あげられた。南側に舞台が残ってゐた。
舞台の上の壁は荒廃してくつれかかり、その窓を通して街の方が見わたせた。
ギリシャ、悲劇の多くがその昔この舞台の上で上演せられ、観客達がここの石の上に腰かけてそれを見てゐたのかと思ふと、そこにゐる自分が不思議に思はれた。
然しこの野天劇場の観覧席の上には、鳴呼すでに白いパルテノンの神殿が幻のやうに草と岩の間から見えてゐた。