2019年5月29日
パルテノン(7)―ギリシャ紀行― 中河与一
私は広い山上の廃櫨の中をあちこちと俳徊しながら、ギリシャの歴史と栄光とを記録した破風の彫刻をながめたり、それから北側にある六人の少女像が柱になってゐるエレクテオンの神殿の方へ行ったり、また門の西南隅にある端正なニケの神殿におりて行ったりした。
東端に突出した展望台からは街全体が見渡せ、この古代都市が如何に美しく、ホメロスや、ソクラテスやプラトンが歩いたのは何処であったらうかと想像させた。
その展望台と神殿跡との間の南よりの低地にアクロポリス博物館があった。この丘から発掘せられたものだけがここには保存せられてゐるのだといふ。
ライオンと格闘してゐる勇士のレリーフ、車に乗らうとするニケ、手足のとれた東洋人のやうな懐しい顔をした少女像、巨人を搏つアテナ女神像――それらはみごとな均斉をもって寸分の破綻もない形をして立ってゐた。破綻がなさすぎるかもしれないと想った。