2019年7月19日
着魚山水 小山正孝
このあひだ君と雑談をしてゐた時 談たまたま滝におよんだ
春には水量も多く虹を描き出すといふこととか
寒い時にはつららが下り 濡れた岩壁がそびえ 途中の岩から
枯蔓が風に吹かれてゆれてゐることがあるといふ話などした
君があの句を覚えてゐてくれたことがわかつた
そして いいな とも言つてくれた
現実に 僕は 今 目の前に滝を見てゐる
ある場所が高い所で岩と木のあひだで低くなつてゐる
狭いふくれあがる流れに光が当つて
その上にさし交してゐる枝
遠くからは枝は動かない黒い骨に見える
水は乱れながら休むことなく 粉になつて落下してゐる
途中の岩にぶつかつて 形を崩しながら
自分の主張があるのであらう 音をしづめて
形をすぐにととのへようとしてゐる
落ちつくした水は もう一度
横の方に 挑ねあがる
考へてゐた時とは別の力があることがわかつた
そして 不思議なものだ 僕には
「滝見てその夜宿に眠れぬ」といふのが
今日のことの予感であつたやうに思へるのだ