2019年8月5日
詩と釣りと(4)最終回 伊藤桂一
私にとっては重く暗い記憶につながる豊橋へ、そのうち釣竿をかついで出向こうかと考えている。当時果たし得なかった夢を、いま果たそうというわけだが、ひとつには豊橋を拠点として、もう}度北設の山岳地帯を歩いてみたいのである。そのころの私の詩に「絶景」というのがある。
ひっそりと抱きあったまま
谷底へ墜ちてゆく蝶
無常なほどにも美しく
そこに湛えられている深淵
その上でひらりと別れ
こんどは絶壁に沿うて
なおも相縺れしてのぼってくる
というのであるが、当時はこの風景を無意識にさぐった心象のイメージと思っていたのだが、このごろになって、これは北設地方の渓谷の印象であったのではないか、という気がしている。それをもう一度、山を歩きながら、さぐってみたいのである。