2019年8月6日
膕の美と腓の美(1) 斎藤玉男
人体は曲線の集成であり、従って人体美は曲線美の集合綜成の排列であるとは、以前から言われるところである。それは眉毛列の美であり、腱毛列の美であり、頷の彎曲美であり、頬の豊彎美である。言わば生理学的解剖学畑の美である。更に加えればヒップスの曲線美やウェイストのそれである。
ところでこの頃私の気付いたケ条は、従来脇の美に就いては余りにも関心が払われて居らなかったと思う。一口に脚線美と言うが古今の画でも特に掴の美に描写の集中された例は思い出せない。これは膕のために悲しむべきであると思う。わが国のポルノグラフィーに於てすら、拇趾の動きには細心の注意が払われて居るが、膕の表情は大方お留守である。
近年服装流行のうごきが多分に脚線美に向けられて来たことは、一つにはジャズ・ダンスの流行に誘発されたものであろう。併し膕の美への集中はまだまだ稀薄である。膕はいわゆる膝膕窩とその周辺を含んで居り、両側は四頭股筋の腱でクッキリと界されるが、腱の谷間から起る腓腸(ハギ)の膨らみがここでは大切である。なかんずくそこの谷聞を填める脂肪層のさりげない豊満度が事柄の核心をつくる。若やかな皮下静脈の一すじが仄かに透けて見えるとすれば之に加えるべきケ条はないであろう。