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2019年9月5日

アルベール・カミユ 「結婚」 柏倉康夫訳 ティパサでの結婚(2)

まえがき  柏倉康夫

昔から良い作品や文章を読んだとき、感動の証に背筋が震えることがときどきある。その最初の経験が、高等学校のときに読んだアルベール・カミュの『結婚』だった。古文の授業時間に教科書に隠すようにして読んでいて、突然背中がブルッとふるえた。
90ページほどの本には、「ティパサでの結婚」、「ジェミラの風」、「アルジェの夏」、「砂漠」の4篇の詩的エッセーが収録されていて、冒頭の「ティパサでの結婚」の印象はとくに強烈だった。これらのエッセーに共通するのは、アルジェリアをはじめとする地中海地方に特有の大地、輝く太陽、青い空、吹き渡る風、芳香を放つ色とりどりの花••••こうした世界の美しさを肌で感じつつ、今この時を生きることへの讃歌である。そしてこのためには、何よりも若さとしなやかな肉体を必要とする。
カミュはのちに書く『シーシュポスの神話』のエピグラフに、古代ギリシアの詩人ピンダロスから、「ああ、わが魂よ、不死の生に憧れてはならぬ、可能なものの領域を汲み尽くせ」という言葉を引用するが、この一行こそ『結婚』の内容を要約している。若かった私が深く感動したのも、こうした生き方に共鳴したからに他ならない。
初めて読んでから凡そ65年、窪田啓作、高畠正明両氏の既訳があるが、あえて自分なりの翻訳をこころみた。テクストは1950年刊行のガリマール版によった。

【 本編執筆者 柏倉康夫氏は共立荻野病院理事長 荻野鐵人の高校時代の御友人です 】

ティパサでの結婚(2)
 わたしたちは入り江に面した村を通ってやってきた。アルジェリアの夏の大地の激しくむせるような息づかいが待ち受けている。黄色と青の世界に入っていく。いたる所で、ブーゲンビリアが邸宅の壁を越えており、庭には、いまは白いが、やがて赤い花をつけるハイビスカスや、クリームのように濃いティーローズ、繊細な縁取りをもつ背の高い青いアイリスが、一杯咲いている。石という石が熱い。わたしたちがキンポウゲ色をしたバスから降りる時刻は、肉屋たちが赤い車で、それぞれ朝売りの一巡をしていて、吹き鳴らすラッパが住民たちを呼んでいた。



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