2019年9月25日
「ジェミラの風」(2)アルベール・カミユ 柏倉康夫訳
ジェミラへ行くには長い時間がかかる。そこは人が立ち止まったり、通り過ぎたりする街ではない。そこからはどこにも行かれず、いかなる地方とも通じていない。そこは人がそこから帰ってくる場所だ。この死んだ街は、曲がりくねった長い道の終点にある。その道は曲り角へ来るたびに、その先に街があると期待させ、その分よけいに長く感じるのだ。そしてついに、高い山々の間にはめ込まれた、色褪せた色の台地の上に、まるで骸骨の森のような黄色味がかった街の骨格が出現する。そのときジェミラは、たった一つ、わたしたちを世界の鼓動する心臓へと導く、愛と忍耐の教訓のシンボルに見えてくる。幾本かの木や、枯れた草のなかにあって、ジェミラは周囲の山々と石とで、陳腐な讃嘆や、絵画趣味、あるいは希望の戯れから自らを守っている。