2019年9月26日
「ジェミラの風」(3)アルベール・カミユ 柏倉康夫訳
わたしたちはこの不毛な壮麗さのなかを、一日中さまよっていた。午後の初めになると、次第に風が感じられるようになり、時間とともに強まり、すべての風景を満たすように見えた。それは遠く東の山間の隙路から吹き出して、地平線の彼方を駆け抜け、石と太陽のまっただなかを、滝のように跳躍して来るのだった。絶え間なく廃墟を吹きすぎ、ときにはひゅうひゅうと鳴り、石と土の曲馬場を一巡し、あばたのような穴があいた岩々の堆積をひたし、石柱の一つ一つをまわって、空に向かって開いている広場の上で絶えず叫びをあげて、拡がっていった。わたしはまるで帆柱のように、自分が軋るのを感じた。こうした環境に穿たれ、目は焼かれ、口はひび割れて、肌はもはや自分のものではないほどに乾いていた。この肌によって、以前は、世界の文字を解読していた。世界は、その夏の息吹で肌を熱くし、あるいは霜の歯で肌を噛んで、そこに優しさや怒りの徴を残したものだった。だが、これほど長く風にさらされ、一時間以上も前から揺さぶられていると、抵抗することに陶然となって、わたしの肉体が描いてきた輪郭の意識を失ってしまった。海の潮でニスを塗られた小石のように、わたしは風に磨かれ、魂まですり減らさてしまった。わたしはこの力の一部で、それに翻弄され、次いでその力の大部分、最後には、その力そのものとなった。わたしの脈打つ血と、自然のいたるところに現存する心臓の力強い響きが一つになった。風がわたしのなかに、周りの燃えるような裸体のイメージをつくり上げ、風との束の間の抱擁、多くの石のなかにある石や、石柱や、夏空に立つオリーヴの木の孤独をもたらした。