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2019年10月2日

「ジェミラの風」(7)アルベール・カミユ 柏倉康夫訳

 人は自分に馴染んだ何らかの観念とともに生きている。それも二つか三つの。世界と人間との偶然の出会いで、人はそれを磨き、変えていく。自分の身についた観念を得るには、十年が必要だ。当然、これにはいささかがっかりする。それでも、人はその間に世界の美しい顔にある種の親密さを抱く。そこにいたるまで、彼は面と向かって世界を見てきた。そして今度は、世界の横顔を見るために、一歩横へ動かなくてはならない。一人の若い男が真正面から世界を見る。彼にはこれまで、死や虚無の観念を磨く時間はなかったが、その恐怖を噛みしめてはいた。こうした死との辛い差し向かい、太陽を愛する動物の肉体的なあの恐怖、それこそが青春に違いない。だが普通いわれているのとは逆に、少なくともこの点に関して、青春は幻想を抱かない。幻想でおのれをつくりあげるには、青春には時間もなければ信仰もない。なぜか知らないが、この深く刻まれた風景、陰惨で荘厳な石の叫びを前に、落日のなかの非人間的なジェミラ、希望と色彩の死を前にして、人生の終わりにいたったとき、人間の名に値するものなら、こうした対峙をふたたび見出し、彼らのものだった観念を否定し、無垢と真実を取り戻すに違いないと、わたしは確信していた。それは運命に直面した古代の人びとの目のなかで輝いていたものだ。彼らはふたたび青春を取り戻す。だが、それは死を抱きしめることによってなのだ。この点では、病ほど軽蔑すべきものはない。それは死を癒す薬だ。それは死に備える。それは一種の年季奉公をつくりだす。その第一段階は自己憐憫だ。それは、全的に死ぬという確実な事実を逃れるためにする大きな努力のなかで人間を支える。だがジェミラでは・・・わたしはここで、いままさに感じる。真実は、文明の唯一の進歩とは、またときとして、一人の人間が執着する文明の進歩とは、意識された死をつくりだすことなのだ。



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