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2019年10月3日

「ジェミラの風」(8)アルベール・カミユ 柏倉康夫訳

 わたしがいつも驚かされるのは、他の事柄ならすぐに凝るのに、死については貧弱な観念しかもたないことだ。これは良くもあり、悪くもある。わたしは死を恐れ、あるいは(みなが言うように)、死を呼び出す。だがこれは、単純な事柄はすべて、わたしたちを超えている証明でもある。青とは何か? 青について何を考えるか?それは死に対するのと同じく難しい。死について、色について、わたしたちは議論するすべがない。しかし、わたしの前にいるこの人間は重要であり、大地のように重く、わたしの将来を前もって体現している。それでもわたしは、本当に死を考えることができるのか? わたしは自問する。わたしは必ず死ぬ。だが、これは何も意味していない。なぜなら、わたしはそれを信じるには至っていず、他人の死の経験しかないからだ。わたしは人の死を目撃した。とくに、犬たちが死ぬのを見た。わたしは死んだ犬に触れて、動転した。そのとき思ったのは、花、微笑、女たちへの欲望だった。そして、死ぬことの恐怖は、すべて生きることへの羨望につながっているのを理解した。これから先も生きていく人たち、彼らにとって、花や女たちへの欲望が、その肉や血の感覚となり得る人たちに嫉妬した。わたしは羨ましかった。わたしはこの人生を愛している、だからエゴイストにならずにはいられない。永遠など何の意味もない。人にはやがてその日がやってくる。ある日、横になって、誰かがこう言うのを聞く。「あなたは強い。そしてわたしはあなたに忠実でなくてはならない。だから、あなたはやがて死ぬ、と言えるのだ」。両手に全生命を握りしめ、臓腑にすべての恐怖をつめ込んで、白痴のような目差しをして、そこにいる。その他のものに何の意味があるだろうか。血の波がこめかみで脈打つ。そして、わたしは周囲のものをすべて粉々にしてしまうように思える。



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