2019年10月4日
「ジェミラの風」(9)アルベール・カミユ 柏倉康夫訳
だが人びとは、彼らが誰であろうと、その外見にかかわりなく死んでいく。人は彼らに言う、「あなたが治ったときは…」、だが、彼らは死ぬ。わたしはそんなことを望まない。なぜなら、自然が嘘をつく日もあれば、真実をいう日もあるのだから。ジェミラは、今宵、真実を告げる。それはなんと悲しげで、なんと美しい瞬間だろう! わたしはといえば、この世界を前にして、嘘をつきたくないし、嘘をいわれたくもない。わたしは最後の最後まで、自らの明晰さを保っていたい。そして自分の最後を、満腔の嫉妬と恐怖で見守りたい。わたしが死を恐れるのは、自分がこの世界から隔たる度合いに応じてであり、これからも続く空を眺める代わりに、生きている人間の運命に執着する、その度合いに応じてなのだ。意識された死をつくるとは、わたしたちと世界を隔てる距離を縮めることであり、永遠に失われる、興奮させられる世界のイメージを意識しながら、歓喜もなく、成就へと入っていくことだ。そして、ジェミラの丘々の悲しい歌は、前よりも一層、わが身にこの教訓の苦い真髄を叩き込む。