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2019年10月23日

アルジェの夏(10)アルベール・カミユ 柏倉康夫訳

 青春のしるし、それは多分、安直な幸福への素晴らしい適応力だ。とりわけ浪費すれすれの、生きることへの性急さだ。ベルクールでは、パブ=エル=ウエドと同じように、みなごく若いときから働き、人生の経験を十年間で汲み尽くしてしまう。三十歳の労働者は、すべてのカードを使い果たす。彼は妻と子どもたちの間で終焉を待つ。彼の幸福は唐突で、かつ情け容赦のないものだった。彼の人生もまた同様だった。そのとき人びとは、すべては取り上げられるためにあたえられる、そういう国に生まれたことを理解する。こうした過剰な豊かさのなかで、人生は、唐突で、要求が多く、気前のいい偉大な情熱の曲線をたどる。そうした人生は何かを作り上げることにはなく、焼きつくすことにある。だから、反省や、より良くなろうとするのは問題にならない。例えば、地獄という観念は、ここでは愉快な冗談でしかない。そんな想像力は、徳の高い人にしか許されていない。美徳など、全アルジェリアでまったく意味のない言葉だとつくづく思う。ここの人たちに原則が欠けているというのではない。彼らには彼らなりの道徳がある。だがそれはきわめて独得なものだ。彼らが母親に「背く」ことはない。街頭では、自分の妻を敬わせるし、妊婦には敬意を払う。一人の相手に二人でかかっていくこともしない。なぜなら、〈それは卑しいこと〉だからだ。この基本的な掟を守らない者には、〈あいつは男じゃない〉といって、事を片づけてしまう。わたしには、これは正しく、力強いことに思える。いまもこの街頭の掟は無意識にきちっと守られていて、わたしが知る限り、それは唯一公平無私のものだ。一方で、ここでは商人の道徳は知られていない。警官に囲まれた男が通ると、周囲の人たちの顔に、同情の色が浮ぶのをよく見た。その男が盗みを働いたのかどうか、親殺しだったかどうか、非協力者であったかどうかを知る前に、〈可哀そうな奴だ〉といい、あるいは、讃嘆のニュアンスを込めて、〈あいつは、海賊だってさ〉といったりする。



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