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2019年10月24日

アルジェの夏(11)アルベール・カミユ 柏倉康夫訳

 傲慢さと生とに生まれついた民族がいる。彼らは怠惰について、きわめて特殊な資質を育てている。彼らには、死の感情はもっとも胸をむかつかせるものだ。官能の喜びを別にすれば、この人たちの楽しみは馬鹿げたものだ。ペタンク(4)愛好協会と「親善クラブ」の宴会、三フランの映画と町のお祭り。三十歳以上の人たちの娯楽は、これで十分なのだ。アルジェの日曜日はもっとも陰欝だ。精神というものを持たない彼らに、神話でもつて生の奥深くにある恐怖を覆い隠すことができるだろうか?ここでは死に触れるものはすべて滑稽か、さもなければおぞましいものだ。宗教も偶像も持たない人たちは、群衆のなかで生き、たった一人で死んでいく。世界でもっとも美しい景色に臨むブリュ大通りの墓場ほど、醜悪なものを他に知らない。黒い喪服に取り囲まれた悪趣味な土饅頭は、死が素顔をのぞかせるこの場所の、途方もない悲しみを露骨に見せている。「すべては過ぎ行く、想い出を除いて」と書かれたハート型の奉納絵馬。これら一切が、愛してくれた人たちの心が、ちょっとした手間であたえてくれる、あの滑稽な永遠なるものを強調している。どの絶望にも同じ言葉が用いられる。それは死者に呼びかけ、二人称で語られる。〈わたしたちの想い出は、お前から離れることはない〉。これは不吉なまやかしであって、人びとはそれで、せいぜい黒い液体でしかないものに、肉体と欲望を貸しあたえるのだ。その他、沢山の大理石の花と鳥のなかには、こんな無鉄砲な誓いもある。〈お前の墓に花が途絶えることはないだろう〉。そして人びとは直ぐに安心する。黄金の漆喰の花束に囲まれた碑銘が、生きている者にとっては時間の節約となる。(だから〔麦藁菊immmortelle〕不死と同じ綴り字〕という仰々しい名前は、走っている電車にいまだ乗っている人たちの感謝の念を負っているのだ)。物事は時代とともに進まなくてはならないから、ときとして〔墓の飾りとして〕古典的な頬白が真珠の飛行機に代えられて、人を面食らわせることもある。飛べない天使がそれを操縦しているが、理屈は無用で、天使には素敵な一対の翼がついている。

訳注
(4)ペタンクはフランスで生まれた玉遊び。ビユットと呼ばれる木製の目標に目がけて鉄の玉を投げで、ビュットにどれだけ近いかを競うゲームで三人対三人のチームで行うのが基本。



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