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2019年10月30日

アルジェの夏(15)アルベール・カミユ 柏倉康夫訳

 事実、多くのものが愛そのものを避けようとして、生きることを愛しているように装う。人びとは楽しもう、「経験を積もう」とする。だがこれは精神の視点だ。快楽の追求者であるには、まれな資質が必要だ。一人の人間の生活は精神の助けなしに、彼の後退と前進、同時にその孤独と現存で達成される。ベルクールの男たちは、働き、妻と子を守る。そして多くの場合、愚痴もいわないのを目にして、わたしは、彼らはひそかな恥じらいを感じているのではないかと思う。もちろん、わたしは幻想など抱いていない。わたしがいま語っている生には、多くの愛などありはしない。だが少なくとも、彼らは何も誤魔化さなかった。わたしには決して理解できない言葉がある。例えば罪という言葉だ。この人たちは生に対して、決して罪を犯さなかった。もし生に罪があるなら、それは生に絶望することではなくて、別の生を希望し、あるいは生の仮借ない大きさを免れようとすることだ。この人たちは誤魔化しはしなかった。彼らは生きることへの情熱で、二十歳のときに、夏の神々となった。そしてすべての希望を奪われ、いまもそのままだ。わたしは彼らのうちの二人が死ぬのを目にした。彼らは恐怖で一杯だったが、落ちついていた。その方がまだいいからだ。人間の悪がひしめくパンドラの箱から、ギリシア人は色々なもののあとで、もっとも恐ろしい希望をとび出させた。わたしはこれ以上感動的な象徴を知らない。というのは、人びとが信じているのとは反対に、希望は諦めに等しいからだ。そして生きるとは諦めないことだ。



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