2019年10月31日
アルジェの夏(16)アルベール・カミユ 柏倉康夫訳
ここには少なくとも、アルジェの夏の厳しい教えがある。でもすでに季節はふるえ、夏は移り行きつつある。あれほどの烈しさとひび割れのあとの、九月の最初の雨がある。それは解放された大地の最初の涙のようで、数日間、この国が優しさにまみれるようだ。しかし同じ頃、イナゴマメがアルジェリア全土に愛の匂いをふりまく。夕方、あるいは雨上りのあと、すべての大地は、その腹を苦いアーモンドの匂いのする精液で濡らしたために、夏の間、それを太陽にさらして休息する。そしてまた新たに、この匂いが人と大地の婚礼のために捧げられ、わたしたちのなかに、この世で真に雄々しい唯一の愛を立ち昇らせるのだ。それこそが儚くも高潔な愛だ。