2019年11月21日
砂漠(11) アルベール・カミユ 柏倉康夫訳
何百万という目がこの景色を眺めたのを、わたしは知っていた。それは空の最初の微笑のようだった。そしてそれは言葉の深い意味で、わたしを自分の外に連れ出してくれたのだ。わたしの愛と、石の美しい叫びがなければ、すべては虚しいとわたしは確信した。世界は美しい。それ無くしては、何の救いもない。そのことが辛抱強く教えてくれた偉大な真実とは、精神など何ものでもなく、心もまたそうだということだった。そして、太陽に熱せられた石や開けた空のせいで、高くなったように見える糸杉こそが《正しい》という意味が、唯一この宇宙を画することを教えてくれた。つまりそれは、人間のいない自然である。この世界はわたしを無にする。これは徹底的になされる。世界は怒りもなく、わたしを否定する。フィレンツェの野に落ちる夕暮のなかで、わたしは一つの叡智への道をたどって行った。目に涙は浮かばず、わたしを満たしてくれた詩の激しい鳴咽のせいで、わたしが世界の真実を忘れなかったとしても、すでに一切は征服されてしまっていたのだった。