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2019年12月2日

語りかける(4) 佐藤東洋麿

 単行本よりいっそう厳しかったのは月刊誌である。
「NHKラジオフランス語講座」には巻末にエッセイを添えるのが習わしだった。注文は文学者について書かない、千百字以内。なるべくドラマチックに生きた人を描こう、たとえば二十歳、決闘で死んだ天才数学者エヴァリスト・ガロワ。十九世紀のはじめに、方程式を解くとはどういうことか、答えを見つけるのではなく答えが決して見つからないのはどういうときか、をわずか六十頁の草稿に残したまま逝った彼。いくら参考書でわかろうとしても私には未知の世界である。ずうずうしく「駆け抜けた青春の軌跡」などと書いたら、まさかと思っていた数学の教授から言われた。
「あなたがNHKの本に書いてた方程式のところ、書いてる本人がわかってないんじゃない?」その通りである。
 ガロワの群論が理解できるくらいなら、大学に入るのに浪人はしなかったに違いない。関さんのひと言は私を和ませたが、調子にのった私を「青春恥多し」の実践者にもした。



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