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2020年5月14日

中高年の健康戦略(7) 富士通川崎病院 院長 行山康

 中高年の「健康戦略」において、「暑さ、寒さ」にはふたつのポイントがあります。ひとつは中高年においては「暑さ、寒さ」により敏感になるということです。もうひとつは「暑さ、寒さ」のうちで特に「暑さ」を重視して健康戦略をたてたほうがよいということです。
 「暑さ,寒さ」により敏感になるということは、気温の変化,気象の変化に対する許容性が低下し、わずかな変化にもからだの変調をきたしやすくなるということで、若い頃は夏冬をうす着でとおしたり、夏の暑いときでも汗ひとつかかないような顔をしてスーツに身を包んでいたひとも,だんだんと同じペースですごすのがつらくなります。活力と精気で「暑さ,寒さ」をはじきとばしていたひとが,始終かぜをひいたりするようになります。
 「暑さ、寒さ」により敏感になるということにはよい面もあります。からだはしっかりと「暑さ、寒さ」を伝えてくれますから、そのメッセージにしたがってこまめに身の回りの環境を整えてゆけば、それなりに大きな変調をきたすこともなく、日々を過ごして行けるということをも意味します。ジメジメとした暑さを感ずるときは風とおしよく涼しげな衣服を、薄ら寒さを感じたら我慢していないで一枚軽く上着を重ねるとか暖房するとかこまめになさることがすすめられます。
 「暑さ、寒さ」の変化はいわばストレスとしてからだに作用してゆきます。ストレスというと最近はメンタルヘルスに関連して語られることが多いですが、「暑さ、寒さ」の変化がからだにあたえる影響を物理的ストレスといいます。物理的ストレスは例えば大怪我をするとか、頭に急な障害(事故とか脳血管障害)を受ける、大火傷をおったときなどが典型例で反応として胃腸障害とか急性胃潰瘍など消化管の障害があらわれます
 「暑さ、寒さ」のうちで「暑さ」のストレス変化は食欲低下、脱力、全身のだるさなどとしてあらわれ、「寒さ」のストレス変化は下痢症状としてあらわれることが多いです。
 「熱中症」は暑熱による極端な身体反応です。通常は皮膚から汗が蒸散することや呼吸などでからだから常に熱が放散されています。炎天下での庭仕事とか畑作業、或いは競技大会、その他のスポーツなどでからだに熱がこもって自然な放熱が妨げられると体内臓器の働きの変調とか温熱中枢の変調がおこり、体温が上昇し意識が低下し、嘔吐、痙攣発作などをおこします。

 次に「暑さ」に重きをおいて健康戦略を立てるほうがよいという問題ですが、しばしば引用されるものに徒然草の一節があります。
 「家のつくりやうは、夏をむねとすべし、…」(第五十五段)とあり、以下に冬の寒さはなんとでもなるが、作りの悪い住まいで夏を暮らすことは本当に耐えがたいものがあるという意味の言葉が続きます。作者の兼好法師は13世紀のひとですが四季の気候は日本においてはその頃から大きな変化はないということでしょうか。ロンドン、パリ,東京を比べてみると冬の平均気温は3つの都市で変わりありませんが、夏は東京のみが熱帯地並みで他の都市より平均気温で7,8度は高いのです。もちろん日本の北から南までで地域差はあり、この場合はおもに本州以南の特に都市を中心に考えています。
 慢性の病気をもっていたり高齢の場合は特に夏を越すことがひと勝負です。なんとか越してもからだがかなり弱ったりします。患者として接するそういうひとたちには今夏もうまく夏を越えてくださいと祈るような気持ちになります。それだけ日本の夏は大変なのです。
 昭和40年代より日本人の夏のすごし方もエアコンが普及してきてだいぶ変わってきているということがいわれます。季節感がなくなって一年中,快適な環境で暮らすようになってきたと。しかしそれを追いかけるように地球温暖化の問題がおこってきています。エアコンの普及以上の速度で夏日が多くなり最高気温も毎年のように観測史上最高を記録更新しつづけるかもしれません。地球温暖化を防ぐにはエネルギー消費を減らしてゆくことが大切ですが、それはエアコンをつけて夏を快適に過ごすことと背反します。ひとりひとりの個人が健康のために快適に過ごすことが広い地球の在りようを考慮にいれねばならない事態となっています。

 ずっと以前のことですが毎年,6月中旬ころからなんとはなしに体調不良で,特に不眠、だるさ、虫刺されがなおらないなどを経験していました。毎年続くことなので気持ちの構えをすることでだんだんと不眠などはおこらなくなりましたが、あるときはたとおもったことがあります。ひとのからだは季節変化の影響をストレスとして受け止めている。これは前からいわれていることだ。もしかするとひとのからだ自体が季節の変化に応じて変化しているのではないか。これは大発見,大いなる真理をつかんだと一瞬、得意の気分になりました。しかしこのことは冬眠,夏眠するリズムをもった動物がいたり、またひとのからだの年周期というものもすでに研究されていることがわかりました。さらに驚くべきことは紀元前からの中国医学の理論として季節の変化とひとの健康とは密接に関連していることが述べられていたことです。例えば、夏、秋、冬のからだの状態はそれぞれに特徴があり、冬は「水、寒、黒、腎、陰」などと表現されます。「水」は「火木土金水」という五行説の一端で、やがて「火」にかわるべきものです。冬のからだは水で陰ですが季節がかわると陰をおいださねばなりません。陰寒をからだから追い出す儀式が節分の儀式と言われるようになったそうで、節分の豆まきが五行説による健康に関係しているとは気がつきませんでした。
 「暑さ、寒さ」をふくめた四季折々の変化は上手に対処することによって楽しみをも与えてくれるものです。「暑さ、寒さ」を超えてゆくことに時に困難を感ずるとしてもこの変化ある風土に暮らしてゆける喜びをともに味わってゆきましょう。
(この項終わり、以下に続く)



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