2020年6月18日
中高年の健康戦略(12) 富士通川崎病院 院長 行山康
現代人は途切れるとことのない情報の奔流の中に生きている。日々の行動は膨大な情報のたまたまつかんだ一部の情報をもとに判断され、決定されている。情報の源泉は日々の営為にある。情報を加工,発信するのは社会の専門化された機能である。
何故,情報は膨大か。それは現代生活が多様,複雑だからである。何故,複雑多様となったか。これは自然界の法則であり宇宙がビッグバン以降、多様な銀河をつくってきたように,人間活動の繰り返しは単純な繰り返しでなく進化に色づけされているからである。
医療・健康に関する情報も毎日膨大に発信されている。
10月20日(日)の毎日新聞,朝刊の医療・健康に関するおもな記事,広告をさらってみた。
①一面―コラム、子供の体力,運動能力が20年前にくらべて低下
②二面-―肺がん治療の経口新薬の副作用について
③三面―自分の病気の診断、病状に関して主治医以外の医師の意見を求めるセカンドオピニオンに関する、新聞社による調査。
④四面(全面の意見広告)高めの血圧、予防と対策
⑤五面―(社説)心神喪失者医療観察法案に関して見直しを求める意見。
⑥十一面―(書評)生体肝移植について
⑦十二、十三面、健康と高齢社会に関する全国世論調査。
⑧十四面―重い病と闘う子供に勇気をあたえようと活動する市民団体10周年
広告関係(キャッチコピー)
・ぢーさわやかな秋をあなたにーこの薬ひとつで
・新容器、つかいやすいかたちEシリーズ(浣腸)
・ずっと元気でいたいから、あなたを守る「乳の神秘」
・「もれない安心」お試しください
・最先端生物抗がん療法,生プロポリスにあえてよかった
・「老舗のステッキ」一生に一本はもちたい、粋でおしゃれで体にやさしい杖
・太陽の「ぬくもり」を部屋のすみずみに、――省エネ暖房機
わずか一日の朝刊に、記事8点、おもな広告7点もありそれでも小さな広告である健康商品とか、健康に関する出版の広告は省かれている。子供の成長,発育、がん治療、高齢社会の健康不安、精神科関係などの記事に、痔薬、浣腸器、サプリメント、おしめ、民間抗がん薬、ステッキ、暖房機などの広告で、医療と健康に関するさまざまな情報があらわれている。これが毎日のことであり、もちろん新聞だけでなく、雑誌,週刊誌、テレビ、ラジオなどのメディア、講演会、ミニコミ、インターネットなどさまざま手段を通じて、情報がながれてくる。
中高年の健康戦略にとって日々に発信される雑多で膨大な健康情報にいかに対処すべきか。医療・健康に関する情報は新聞にかぎらず、少なからずの部分を占め、ときには「健康・医療・介護」といった専用ページがもうけられている。それだけ必要度が高く、求められているのである。そうかといって専門にしているものでない限り全ての情報を受けとめることは不可能であろう。
ここで私は「必要で正確な健康情報」を得るようにしようなどと主張するつもりはない。ここまであなたは情報の奔流の中を泳ぎ抜いてきたのだ。情報がどのような性質をもつかをしりぬいているはずだ。健康診断、アルコール類、サプリメント、衣食住、スポーツ、ペットその他もろもろの中高年を健康に生きぬく環境をいつのまにか身の周りに配置しているはずだ。ひとりひとりが異なった体質をもち、いつのまにか他人とは異なるあなただけの生活習慣をきずきあげている。そのなかにしっかりと健康情報はくみこまれているはずだ。
それはまた健康に暮らしてゆこうといういわばこころの核みたいな部分で、そうした健康観は,中高年としてもっとも大切にすべきであろう。
そしてもしかするとあまりに多くの情報が発信され日々に更新されるゆえに、情報の幻(まぼろし)的側面に気づいているかもしれない。合理的根拠には確信をもてなくともこの情報を信じてすすむのが自分にとってよいことなのだというかたもおるかもしれない。それもまた高い境地での健康戦略であり、そのゆるぎなさこそ中高年の特権といえるであろう。
(この項終わり、以下に続く)