共立荻野病院コラム詳細
TOP > 共立荻野病院コラム一覧 > 中高年の健康戦略(15) 富士通川崎病院 院長 行山康
  • 診療科目一覧
  • 内科
  • 胃腸科
  • リウマチ・膠原病科
  • アレルギー科
  • リハビリテーション科
  • 診療時間
  • 月〜金 午前9:00〜午後12:00
    午後3:00〜午後6:00
    土・日・祝日・年末年始・夏季
    (3日間)
  • 月〜土 午前9:00〜午後4:00
    日曜・年末年始
  • 月〜金 午前9:00〜午後5:00
    土・日・祝日・年末年始・夏季
    (3日間)
  • 院内のご案内
  • 医師紹介
  • 共立荻野病院デイケアセンターフラミンゴ
  • 住宅型有料老人ホーム プメハナ

2020年7月9日

中高年の健康戦略(15) 富士通川崎病院 院長 行山康

 「感染」とは微生物が人体に侵入した状態でこうしたことは日常的におこっています。空気,飲み水、食物、手に触れるものなど全てに細菌とかウイルスといった微小な生物が存在します。
 病気の原因になるような微生物を病原微生物といって医学・医療上の問題となります。今年春に中国を中心に猛威をふるった新型肺炎(重症急性呼吸器症候群SARS)はウイルスという微小な病原体が原因となっています。ウイルスよりは大きいですが、肉眼では見えない大きさの微生物に細菌があります。細菌がうつり(感染し)病気の原因になることがあるということがわかったのはわずか150年ほど前のことです。
 ある種の病気はうつるということはわかっていましたがなにが原因でおこるかはわかっていませんでした。病原微生物が発見されて感染という病気はそれがからだに侵入してからだが戦っている状態であるということが理解されるようになったのでした。それ以前では戦うにも相手の存在がわかっていないのですから自然にまかせていたともいえるし、もし戦いが起これば(感染して発病したときは)ひたすらおとなしくしていることが戦略といえるものでした。
 60年ほどまえから抗生物質という強力な援軍が出現して病原微生物と戦うことがかなり容易となりました。しかし敵もさるもので抵抗力をつけた新たな病原微生物となってむかってくるのでさらにそれに対抗できる抗生物質が開発され、それにまた抵抗性があるものが出現してくるという具合に際限のない戦いがつづいています。医療関係者は病原微生物に対する戦略を考え直している段階です。 

 病原微生物はひとのからだのあちこちから感染します。皮膚、目、耳、咽頭、消化管、爪、尿道、外陰部などさまざまな場所から進入してきます。先に述べたように自然界は肉眼でみえなくとも微生物にみちみちています。例えば手のひらを寒天におしつけて2、3日も放置すると目にみえない細菌が集落をつくって塊りとなり目に見えるようになります。そのひとつひとつの小さな集落が手についていた細菌のひとつひとつから増えたものです。
 すなわち、普通の生活は目にみえない微生物に囲まれているのです。それなのに感染による病気に始終なるわけでもないのはどうしてでしょう。
 わたくしたちのからだには数え切れない病原微生物が付着していたりすみついていたりします。こうした微生物にたいしからだはそれなりの抵抗線をひいています。
 まず皮膚とか粘膜は微生物が進入しにくい細胞の構築をつくっています。また粘液の中には、細菌を殺すような物質も含まれています。たとえさらにからだの表面を越えて微生物が深くはいってきたとしても、血液中のリンパ系の細胞や、呑食細胞が厳しく異物としてチェックします。また一度はからだの中で増えたような微生物であれば免疫の作用で抗体が微生物を撃退するのに役立ちます。したがって病原微生物が感染して体の中で増えるということは容易ではないのです。
 ところで中高年の健康戦略の観点からこれを考えてみると、中高年では微生物を撃退する抵抗線が弱っているという事実があります。特に感染が成立する進入門戸である皮膚、粘膜などが加齢により乾燥したり粘液分泌が少なくなったりして微生物はより容易にすみつくようになっています。免疫の力は比較的に年をとってもおおきな変化はありませんが、侵入の入口あたりでの抵抗線が弱くなりいつまでも撃退されないで残っています。だから風邪をひいていつまでも咳が続いたり、微熱がひかなかったりします。皮膚にしわがよったり、乾燥してみずみずしさを失ったりする中高年の目に見える変化はのどや気管にも生じているのです。

 中高年では病原微生物の侵入からからだを守るためにはどうしたらよいでしょうか。これは特別のことはありません。常に身奇麗にしておくことが最大の防御法です。歯を磨く、手や顔を洗う、入浴する、うがいするなどごく当たり前のことを丹念にしましょう。できるならば「清潔、清潔」ということを呟いて、目に見えない病原微生物と相対した気持ちを持つ事も大切です。
 さらに軽運動をかかさなければ全身の血行もよくなり、進入した微生物は一層よく撃退されるでしょう。
 中高年者でときに注意しなければならないことはもし病原微生物がからだの奥深く進入したとしても、通常おこる発熱という反応がはっきりとは出現しないことがあります。微生物の侵入によって生産される発熱物質に対してからだが十分には反応してくれないのです。したがって熱が出ていないからたいした病気ではないと油断していると大変な目にあうこともあります。

 感染症は微小病原微生物によっておこること、ひとに伝播しやすいこと、抗生物質などの薬で退治する(おもに細菌に対して))ことができることなどいわば常識となっています。しかし相手は全く目にみえないものなのです。
 水平線ははっきりと目に見える存在です。海のむこうに空と海をはっきりとわけている。ところが水平線という実体はないのです。どこまでいっても海が広がるばかりでそのような線をみつけることはできません。中高年の健康戦略とは関係がないかもしれませんが、目に見えていて実体がないものをあるかのごとく信ずるほどに、人間の感覚はあやふやなのに、目にみえない病原微生物に対して健康行動をとるのは衛生思想が普及しているからにほかなりません。今般のSARSが日本で流行しなかったのはこのことに関係しているようにおもわれてなりません。
(この項終わり、以下に続く)



共立荻野病院コラム一覧へ戻る