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2020年7月17日

中高年の健康戦略(16) 富士通川崎病院 院長 行山康

 私事で恐縮ですが、或る晩にみた夢です。寝ているところにいきなり顔の四角い男のひとがやってきてからだの具合が悪いといいます。ここは診るところではないと階下へ案内して椅子に座らせます。そうすると忙しい様子の父がやってきたのでこのひとが具合悪いそうだけどというと父がわかった、わかったといって患者さんをどこかへ連れてゆきます。
 当初は変な夢(夢は大体変な場合がおおいですが)をみたなとおもいました。父は自宅で開業していた医者で30年ほど前に亡くなっているのです。
 精神分析学の創始者であるジクムンド・フロイドは人の精神世界には無意識の部分がある、無意識世界の心の動きがその人の行動と考え方に影響を与えているということをいいました。しくじり行為とか睡眠中にみる夢に無意識の心の一端を探るてがかりがあるとしました。すなわち夢を分析すると無意識世界のこころの力動が解明されるということをいいました。
 フロイドにならって素人なりに夢の解釈をすすめてみるとこの夢はなにかに「頼る」、依存したいという深層心理があるのではないかということに思い至りました。
 生まれてしばらくは完全に母親に「頼る」人生です。「頼る」は「甘え」という甘美さを伴い、いつまでもそこにとどまっていたい気持ちがのこります。しかし成長するにつれて身体は自由さをもとめ、「頼る」はかえって自由を束縛することを感ずるようになります。「頼る」は減弱し、自由と自立を深めてゆきます。このへんのところはひとでも動物でもほとんどかわりがないようです。
 中高年では人生のうちでもっとも自立性がを高い状態からすこしづつ下降線を辿って行く時期とかんがえられます。意識的な「頼る」は家族とか社会制度に支えられています。無意識の「頼る」は底に沈んでいます。
 そうすると何故このような夢をみたのかという問題になります。30年以上も医者をやってきているので、急に現われたとはいえわざわざ父に頼むこともないのです。急に現れた患者さんとおもわれるひとは漠然とした不安を象徴しているのでしょう。それを父に引き継ぐとは自分が医師であるにもかかわらずそのことを忘れるほどに深い不安をあらわしているのでしょう。父に患者さんを引き継ぎ、「頼る」ということがなかったとするとこの夢は悪夢になった可能性があります。

 不安が全くない生活などありえないでしょう。中高年では老後のこと、年金は大丈夫か、病気になったり、からだが不自由になったら介護はどうなるかなどはなど不安の種は尽きません。そうかといって先行きの不安のことだけ考えて毎日を送っていたら早晩,不安におしつぶされてしまい、うつうつとした気分で毎日を過ごすことになります。希望とちょっとした楽しみが必要です。孫の成長を喜ぶ、草木を育てる、さまざまな趣味に生きる、スポーツを楽しむなどは生きる希望とはずみをつけます。これらはいわば能動的,意識的に人生を生きているときのこころの働きです。
 ところが場合によっては不安とか苦しい実体験はこうしたものをおしつぶして深く深層心理に侵入してゆきます。無意識の世界ですからその影響ははっきりしないようにおもわれます。しかし不安に対抗してバランスをとる心の働きがないと毎日の気分と行為の安定感がうしなわれます。バランスをとる働きのひとつが無意識の世界での「頼る」ではないでしょうか。
 「頼る」は宗教であれば神、私のように無神的にすごしているものにとっては先祖であり自然であり、ときに父などが支えとなっているとおもわれます。

 中高年でときにうつ傾向を強めるかたがいます。高名な作家の自殺などが典型例で、不安と苦しみが浸透してきたとき無意識のレベルの備えがうすくなっていたために、心の破綻をきたした可能性があります。日本人は無神的に生きているひとが多いですが、祖先
に対する気持ちといったものは無意識の世界では頼りとして支えてくれなかったのでしょう。
 現代人の孤独、こころの空白、不安といったことは直ちに中高年のメンタルヘルスの問題でもあります。意識のうえで或いは実生活のうえでの「頼る」べき年金、介護、よい家族関係、健康などはいつのまにか手ですくった砂がこぼれ落ちるように減ってゆきます。そうかといって焦りを感じているひとはすくないでしょう。大きな流れの中でなるようになるとおもっているはずです。しかしそうした安心感の一端は深層心理における「頼る」という気持ちが担っているかもしれません。
 父の夢を思いがけずもみて、その意味を解釈すると、深い心理の奥底で「頼り」としている父のような存在があって心のバランスをとってくれるから日々平穏にすごせているようにおもえてなりません。
(この項終わり、以下に続く)



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