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2020年11月19日

中高年の健康戦略(23) 「違い」 富士通川崎病院 院長 行山康

 71歳でヨットにのって世界一周、しかも単独無帰港という壮挙をなしとげたひとがいます。また100歳になっても本場アルプスやカナダのスキー場をすべりまくっているかたがおります。こうしたかたたちは全ての世代からみても超人といえるひとたちで、誰でも真似できるものではありません。
今回は中高年になると若い頃との健康の違いを意識することが健康戦略として大切で、さらにその「違い」を超えてゆくことで新たな世界がひらけるということを述べたいとおおもいます。

 「年寄りの冷や水」という言葉があります。広辞苑によると「老人に不似合いな危ういことをすること。また老人のいらざるさしでたふるまいをすることにいう」とあります。
 もともとの意味を私なりに解釈してみます。「冷や水」は神事の前とか神事の一部として冷たい水をかぶる行為のことでしょう。冷たい水を急にかぶると皮膚の血管が収縮して、内臓の血流が増します。脳への血流量も増加してからだがきゅっと締まった感覚を生じます。いわば身を浄めた清々しい感じになります。皮膚表面の血流が減少して内臓の血流が増えるということは一次的には心臓の負担、運動量もふやします。心臓はポンプとして全身に血液を送り出していますが、そのポンプの圧力が急に高くなるのです。
 中高齢者では心臓のポンプの力が年とともに弱ってきていますから、「冷や水」によって時には心臓発作のようなことがおこったかもしれません。そこで「冷や水」は中高齢者では健康上、危ういことになり、危うい事は避けて年相応にしていなさいとか、年相応にしておればよいのにいらざることに首を突っ込んでくるのはこまりものというふうに使われるようになったのでしょう。

 からだは年ととともにかわってゆきます。みとめたくないことですが、年を重ねれば重ねるだけ、衰えてゆきます。こうしたことはいつのまにかすすんでゆくので、自分が日々に行動する意識とからだの能力に若い頃と比較して「違い」が生じていることに気がつかないことがあります。或いは「違い」はわかっているのだが、その「違い」の大きさを意識しておらず、ときにこのことが健康上,重大な問題をひきおこすことがあります。
 Aさんは若い頃からオートバイを乗り回す事が好きでした。年をとるにつれて力も衰えてきているので、だんだんと排気量も少なめの体力にあったオートバイにかえてツーリングを楽しんでおりました。あるとき止めておいたバイクの位置をなおそうとしてはずみでバイクが自分のほうに倒れ掛かり、バイクの下敷きになってしまいました。足がはさまってどうしても自力ではバイクから抜け出すことができません。ほんのわずかにバランスをくずしただけで若い頃は軽々とあつかっていたバイクの下敷きになるなどは夢にもおもったことがありませんでした。じつに悔しく情けない気持ちになったと語っていました。
 Aさんは衰えを意識して体力に見合った機械に変えていたのですが、実際にことがおこってみると自分の想像している以上にからだが衰えていることをしりました。若いころとからだが「違う」ことを知ることは簡単ではありません。

 「違い」はさまざまなかたちで生じています。まず、気力とか根気。頑張ろうとする気持ちが少なくなり、粘り強さが発揮できません。瞬発力、とっさの判断力、動態視力、筋力、からだの柔軟性、かんがえ方の柔軟性、記憶力、その他あらゆることが10年前とは違うのです。
 インスタントコーヒーの宣伝で「違いがわかる男」というのがありました。インスタントコーヒーはあちこちの会社から出されていて味も似たようなものなのでしょう。しかしこの男(有名な俳優だったり、建築家,演出家だったりする)は「違い」をわかって飲んでいるというメッセージを伝えています。健康上の変化はわずかづつすすみます。「違い」がわかることは容易ではありません。それにもかかわらず「違いがわかる」ひとになりたいものです。

 ところで中高年の健康戦略として「気力,体力の違いを意識して健康維持につとめてゆこう」ということは当たり前のメッセージに過ぎず、誰もがそれなりに気をつけていることです。大切なことは「違いを意識して違いを超える」ということにあるようにおもいます。
 「違い」があることは認めざるをえません。しかしそこですごすごと引き返すのでは情けないでしょう。100歳になっても本場アルプスでスキーとか、71歳にしてヨットで世界一周というのは一部の超人、天才にのみが可能なことでしょうか。
 こうした超人的におもえることを達成するひとは、普段は居眠りとテレビに明け暮れているわけではありません。地道な毎日のトレーニングがあるはずです。そうした毎日の積み重ねは「違い」を意識すればこそおこなうわけで、それは「違い」を超えようとする努力にほかなりません。
 熱意を持ち続ける、努力し続けることができることが天才であるゆえんだというかたもおるかもしれません。しかし、日々の営為などは案外と特別なことはないはずです。ほとんど誰もが少しでも努力すれば手の届くよう行動の積み重ねとおもわれます。ただ「違い」を理解してその「違い」を少しでも自分にちかづけようと努力してゆくことに意義があり、高度の健康戦略があるとかんがえます。
 これはヨットとかスキーといった体育会系に限りません。調査、ボランティア活動、趣味など文化的な活動でも興味をもてることを地道に続けることがよいようにおもえます。生活の全ての面にわたって、若い頃のパフォーマンスに近づけようと努力する必要はないでしょう。自分にあっていることをほんのひとつかふたつ、こつこつと積み重ねてゆきましょう。 気分は100歳でスキーの気持ちで、日々、努力してゆけば新たな未来が開けることを確信いたします。
(この項終わり、次回に続く)



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