2021年2月15日
中高年の健康戦略(28) 「変化と恒常性(1)」 富士通川崎病院 顧問 行山康
「諸行無常」、「万物は流転」、「ゆく川の水は・・・もとの水にあらず」などのよく知られたフレーズは世の中,世界は変化し続けることをいっています。ひとのからだとの状態も日々に変化しています。それこそ、体の細胞のひとつひとつが代謝という物質交換を休みなく行って体を維持しており「・・・もとのからだにあらず」です。
一方、からだの細胞が変化し続けているといっても、一見、昨日と同じように見える状態を生物体の恒常性といっています。
生命(いのち)とか健康は「恒常性」を保ちながら変化し続けているのです。
そこで健康が絶え間ない変化と流れの中にあることを考慮すると、健康診断なるものはある時点のほんの一瞬の状態を知るに過ぎないということがわかります。健康戦略としてはこうしたことを念頭において健康診断の結果を理解する必要があり、以下に簡単に問題点を述べてゆきたいとおもいます。
まず身体計測では身長,体重,血圧などを測定します。身長は20歳ころより変らないひとがほとんどですがときには40歳ころまで毎年、背が伸びたひともいました。身長の増加はときにホルモンの異常に関係することがあります。
体重は注目点で一年間に体重の10%も増えるのは要注意で1-2%以内の変動におさめたいものです。
血圧に関しては収縮期圧140以下,拡張期圧90以下が基準です。基準値の線上にいる多くの方が自分の本当の血圧はいくつなのだろうと悩んでいます。しかし本当の血圧などはないのです。測定する看護師とか機械でも変りますが血圧自体,一日のうちでも変動していますから、自宅では基準値以下だからこれが自分の本当の血圧とおもうこともできません。血圧に関して治療しなければならない場合は頭痛,頭重感、肩こり、しびれ、あるいはもっと重篤な症状とか極端な高血圧が出現するようなときです。どのように血圧が揺れ動いているのかを推定し、総合的に判断して治療の必要性をきめます。これは医師の仕事になります。
血液検査ではよく異常値として白血球数、肝機能検査の一部が注目されます。白血球数はタバコをお吸いになるかたでは大体,多めで、基準値の9000を超えている人も多い。そのほかにも、怪我で化膿している場合とか、かぜなどの上気道疾患にかかっている場合は基準値を超えて増加しています。中高年で白血球数が基準値の上限の2倍もあって、何も症状がないかたは造血器の疾患の疑いがあります。
肝臓機能検査ではビリルビン値は変動が大きく、多少の基準値からのずれは気にすることはありません。GOT, GPT、ガンマGTPなどの異常は肝炎ウイルスの保因者を除くと飲酒,不規則な食習慣が原因となっている事が多いです。値が3桁となったら少し注意が必要ですが倦怠感,食欲低下などの症状がなければほとんど放置しておいてかまいません。そのまま放置しておいても肝硬変に移行することは稀です。
最近、健康診断に取り入れているところは少ないですが、ZTT、TTTなどの血漿蛋白に関する検査の異常値も気にする必要はありません。肝硬変とか血液疾患があって治療を受けているときに異常な値を示す検査です。「健康な状態」で健康診断を受ける場合は多少の異常値は気にしないでよいということです。
生理検査では呼吸機能と心電図検査があります。呼吸機能については不調なひとはすでに治療を受けているので、健康診断としておこなうことは意味がありません。
心電図検査は中高年以降、不整脈とか心筋障害等の異常がしばしばみられます。しかし心電図検査を心筋梗塞の予防とか心臓性突然死の予防のためにおこなうとするならば、それはほとんど無意味です。心電図検査の結果からこうした、心臓におこる重篤な疾患を予測することはできません。したがって健康診断で心電図に異常があったからといってなにも心配することはありません。心臓に問題がおこる確率は心電図検査に異常がないひととかわりないのですから。
(以下、次回に続く