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2021年6月9日

中高年の健康戦略(37) 「形と実(かたちとじつ)」富士通川崎病院 顧問 行山康

 形と実とは人生の諸事万端についてまわります。形をとるか実をとるかということをいつのまにか決断していることも多いです。
 形と実はお茶一杯をいかに飲むかということにもかかわっています。のどが渇くからお茶を飲む、すなわち単純に渇きをいやすという実がある。ところが茶道となると同じにお茶を飲むにも形があります。形を整えて結局はお茶を飲みます。その形の整え方はお茶を飲むということが中心にあり、礼儀作法、道具、菓子、茶室などの全体環境と形が日本文化となっています。 
 スポーツでもとにかくまずトライしてみるのが実。ルールを覚え基本を学ぶところから始めるのが形です。例えばゴルフ場でとにかくボールを打ってみようというのが実とすると、打ち方のフォームを習い、練習場で念入りに基礎練習を積んでからカントリークラブへゆくのが形派です。
 プロスポーツでは実が重要視されます。いかに形がよくとも、実がなければプロとしてやってゆけません。
 形と実の問題はスポーツばかりでなく、外国語の習得、料理、生活習慣、倫理、道徳、など社会生活のすみずみまで関係しています。例えばある問題の解決のために定例的な委員会をつくったとします。当初は意志決定に有効であったのが、だんだんとおざなりの会議のための会議となってしまうことがあります。会議という形だけが残り、実のないものになってしまいます。よくいわれる「民主主義の形骸化」なども「形と実」の問題であることは明らかです。

 健康戦略の問題としての「形と実」は戦略の根本にかかわることです。
 形を重視する戦略のひとは健康診断を含めた現代の医療について少なくとも信頼しています。さまざまな健康診断を受けて、科学的な医療のお墨付きをもらって、すなわち形にはまって、医療のえがく健康の形に合致することを目指します. 
 一方、実を大切にする戦略の人は「毎日元気に暮らしている。どこも具合の悪いところはない、これ以上のことがあろうか、毎日元気でおれればとりあえずそれで十分」と考えます。すなわち科学的医療を信用しないわけではないが、自分が健康であるという感覚に重きをおきたいとおもうのです。
 毎日元気ならばそれで十分派と、医療という形の上で不安があるならばやはり形を重視してそれなりに対処してゆこう派にわかれます。
 十分派と対処派は敵味方に分かれているわけでもなく対立しているのでもありません。              
 おそらくひとりの心の中でも、十分派と対処派がそれぞれ出番を待っていることでしょう。
 現代医学は日々に進歩しています。よりすぐれた検査法、新しい治療法が次々とあらわれています。少し前まではブラックボックスであったことが新たな光に照らされてルーチン化しています。
 例えば日本人で胃がんで死亡するかたは諸外国にくらべてとても頻度が高いものでした。40年以上前から日本全国で胃がんの検診事業がすすみ、また生活習慣の変化もあいまって胃がん死亡率は減少が続いており、がん死亡率のトップを肺がんにゆずっております。  
 30年前は一般の内科病棟へゆくと必ず2,3人は脳血管の障害で半身が麻痺しているひとをみかけました。現在は専門の施設でないとみかけることは少なくなりました。高血圧として診断され多くの人がきちんとした治療をうけるようになったためとおもわれます。
 このように医療の形にはまって、健康障害を予防することは有効な健康戦略です。

 一方、形にはまるということに不自由を感ずるかたも少なからずおります。ひとは誰も形にはまらず、自由闊達に生きたいという願望があります。年を重ねれば悠々自適にやってゆきたいという気持ちも強くなるでしょう。
 自分の体です。何の異常も感じないで常に爽快であれば、いうことないではないか、何故わざわざ医療機関に行く必要があろうか、天命にまかせようということになります。  健康戦略において、長生きが目的でなく、病気をしないことも目的でなく、健やかに生き続けることを目標とするならば、健康の「実」を大事にする戦略にも利点があるようにおもわれます。形派でも実感派でも、同じひとであり生物体です。生物体は時間がたてば必ず滅びる運命にあります。滅びに多少の時間的差がついたとしてもそれはそれでよいではないかということになります。
 こうしたことからすると中高年の健康戦略において、形派と実感派のどちらがよいかを一概には申せません。
 ただし「健康戦略の実感派」ばかりが増えると、医療を生活の糧としているものにとっては大変困ったことになります。しかし、幸いなことに現代社会では科学万能という考えが行き渡っており、実感派がどんどん増えるということはないようです。
 形派のひとも本当は自分の健康感を信じているが、保険として健康診断をうけているのかもしれません。逆の場合も考えられます。必ずしも健康感にあふれているわけではないが、医療に自分の身を委ねることに抵抗がある。自分は小さい頃から医者嫌い、病院嫌いで、この年まで生きてきたというかたもおります。
 健康診断などの医療を行う立場としては、医療が健康障害を100%予測するといったことはありえないし、万全の健康診断などありえないとおもっております。これは小生だけの考えでなく医療者はみんなそのように考えています。
 理想をいえば「形と実」を統合した新たな境地に達することがのぞましいです。それは究極の健康戦略です。この意味については別の機会に述べることにしましょう。
(この項終わり、以下に続く)



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