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2021年8月8日

中高年の健康戦略(39) 「歩く(2)」富士通川崎病院 顧問 行山康

 この健康戦略シリーズの第6回に「歩く」について書いています。ゾウリムシの行動にはじまって、「歩く」はえさをもとめて移動することであり、移動によって得る新たな景色の広がりは、自由でのびやかな気分を育むということを述べています。すなわち「歩く」は未知の世界へ移動する期待を含み、そこに根源的な喜びがあるはずである、足裏に伝わる感覚にこそ自由であることの喜びの原点があると格調高く(?)締めくくっています。
 「歩く」のメンタル面における意義が掘り下げて考察されていますが、具体的なメリットは何かということがぼんやりとしておりましたので、今回は特にからだを中心にその点について述べてみましょう。

 83歳のAさんは小柄の女性で若いころから病気がちでしばしば「医者通い」をしておりました。最近は喘息、慢性胃炎、高血圧などで通院していたところ、あるとき家の中で転んで右の大腿骨頸部を骨折し、手術となりました。高齢にもかかわらず、手術後のリハビリも順調に進んで杖歩行ができるまでになった。
 ところが半年ほどしてまた家庭内で転倒して、今度は左の大腿骨を骨折してしまいました。再び手術を受けて傷は整復されましたが、年齢とかこれまでの病弱の様子から、社会生活を回復することはむずかしかろう、寝たきりかうまくいって車椅子の生活かとおもっておりました。ところ3か月ほどして松葉杖歩行で外来を受診し、車椅子でも寝たきりでもないことをアピールしました。病院へはタクシーできたのでしょうが、この年で両足の大腿骨骨折を起こして、立位を保った生活ができるのは驚異的なことです。
 ご本人にうかがうととにかく体を起して生活したいとおもいリハビリに励んだ、先生が寝たきりだと内臓の働きも衰えるといっていたので、とにかく体を起して、一歩でも歩くことをこころがけたと。
 「歩く」にかけたAさんの不屈の頑張りにつくづく感心いたしました。

 からだをまんべんなくつかうということは健康の基本です。その第一歩は「歩く」ことです。歩くことによって内臓機能が活性化され、全身の活力を増強します。心臓の病気ですら、適度の運動をしたほうが予後がよいのです。
 ところが現代人は特に社会へ出てからは「体を使わないこと」にならされてしまっています。成長期の学生時代にはスポーツに携わってきたひとも社会人になると、仕事が忙しい、残業でスポーツする時間がとれないなどということになります。これが日本の現状です。オーストラリアなどは国民の7割が何らかのスポーツをしているそうですが、日本ではどうでしょうか。
 体を動かさなければ、運動をしなければと思っている人は多いはずです。そういうひとでも忙しい生活の中でいつのまにかそうした思いを眠らされてしまっているのです。
 中高年では忙しかった会社生活の思い出を引きずって、運動不足が常態の生活に甘んじているかたをみかけます。一方やっと自由に自分の体を動かせると、日々のウオーキング、ハイキング、テニス、ゴルフ、水泳、太極拳など再び体に目覚める方も多いです。すべての運動の基礎には「歩く」があります。まず「歩く」をたゆまず毎日、続けること、その基礎の上にさまざまな運動に励みましょう。

 65歳のCさんは軽い糖尿病があって、食物の糖吸収を抑える薬をのみ、食事量をコントロールして毎日を,快調に過ごしております。平均の血糖値も常に基準値付近におさまっています。それでも数年の経過では血糖値は少しづつ増加しているのです。生活スタイルは変わらず、とくに暴飲暴食をしているわけでないのにどういうわけだろうとCさんは疑問を感じています。これは特に生活スタイルが変わらず、薬も減らしたわけでなくとも、内臓の働き、とくに膵臓の働きが加齢により低下してきていることを示します。単純に年を重ねるだけで、内臓も老化しているのです。これに対しては食事量を多くして内臓負担を強めることをはすすめられません。わずかに運動量を多くしてインスリンの利用効率を高めることがすすめられます。そのためには「歩く」を増やすことが一番です。
 運動は全身の血液循環を増加し、老化した内臓に活力を与えます。したがって何歳になっても「歩く」を中心とした軽運動を欠かさないで毎日続けることがのぞましいのです。

 老化は皮膚、頭髪、顔のしわなど外見上に目立つところばかりでなく、腎、心、肺、消化器などの内臓臓器においても進行します。これは人間が生物であるという特性上、防ぐことは大変困難ともいえます。しかし、それなりに元気に活力ある生活を送ることは可能です。戦略としては当然、このへんをめざすことになります。
 「歩く」は活力ある生活を築いてゆく際のすべての基本ですが、もし可能であるならば上半身の運動を加えたい。ダンベル体操,筋肉トレーニング、ラジオ体操、ぶら下がり健康機の使用などなんでもよいです。バランスよくからだ全身をつかってゆくことは循環血をふやすし、内臓の血流を増加させ、ひいては全身のからだの機能を活性化します。すなわち「歩く」は全身の活力を維持してゆく第一歩となります。
 「老」はいつのまにか体の表面にも中にも,散り積もってゆきます。それを手をこまねいてみていることはありません。「老」は自然なことだから抵抗しないということも健康戦略のひとつかもしれませんが、私としては「老」を忘れ振り払うような活力ある生き方をしていただきたい。そのためには、まず日に2千歩でも3千歩でも、たゆまず「歩く」を続けていただきたいとおもうのであります。
(この項終わり、以下に続く)



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