共立荻野病院コラム詳細
TOP > 共立荻野病院コラム一覧 > 中高年の健康戦略(42) 「鍛える」富士通川崎病院 顧問 行山康
  • 診療科目一覧
  • 内科
  • 胃腸科
  • リウマチ・膠原病科
  • アレルギー科
  • リハビリテーション科
診療時間
  • 外来診療時間

    休診日
    月〜金 午前9:00〜午後12:00
    午後3:00〜午後6:00
    土・日・祝日・年末年始・夏季
    (3日間)
  • デイケア利用時間

    定休日
    月〜土 午前9:00〜午後4:00
    日曜・年末年始
  • 院内のご案内
  • 医師紹介
  • 共立荻野病院デイケアセンターフラミンゴ
  • 住宅型有料老人ホーム プメハナ

2021年9月14日

中高年の健康戦略(42) 「鍛える」富士通川崎病院 顧問 行山康

 今回の話題「鍛える」は正真正銘、心身を鍛えるという意味です。今更、鍛えるなんてしんどいことは避けたいよ、毎日平穏無事に、健康に過ごせれば十分だという方が大部分だとおおもいます。そこをあえて、健康戦略として「鍛える」について考えてみようというのです。
 外来診察室で具合はいかがですかと尋ねると、疲れる、腰が痛む、肩がこる等の答えがかえってくることがあります。そのあとに自嘲気味に年だからしようがないでしょうなどと呟くかたもあります。普段鍛えておればそうした言葉は出てきません。
 或いは健康診断などで具合のわるいところがみつかって、手術しなければならないなどということがおこります。手術の予後を左右するひとつの要素は体力です。例えば全身麻酔で手術する場合、筋弛緩剤というものを注射して筋肉の緊張を除いて手術を進めます。筋肉の緊張が無くなると、呼吸が止まるので挿管して人工呼吸器をつけるのです。手術が終わるころには筋弛緩剤の作用も薄れて、自発的呼吸が起こり始めます。この経過は体に大変な負担となります。
 力強い自発呼吸を起こして、麻酔から醒め、さらには手術によって体を侵襲した影響からから早く回復するためには、やはりそれなりに強い体を保持していることが大切です。その手術後の回復を少しでも容易にするため、手術前に呼吸の力を鍛錬した経験をおもちのかたもおるでしょう。例えば毎日プラスチックの球を息で吹き上げる訓練です。
 体全般をふだんに鍛えておくことにより、生活の中での不調感を払拭し、手術のような体を極端に消耗する場合に備えて抵抗力をつけることができます。

 それでも静かに暮らしておれば、年を重ねるに従って衰えが増します。この勢いは止めがたい、少々鍛えたところでなんということはない、いずれは土にかえってゆく有機体の運命にさからってどうするという声も聞こえてきそうです。そうでなくとも無駄なことに時間を使いたくないというひともおるかもしれません。
 体を鍛えるなどということを熱心におこなうと、うっかりすると怪我、故障の心配があるではないか、「年寄りの冷や水」などといわれるのが関の山だよということにもなります。
 つまり今更、体を鍛えてどうこうすることは必要なく、健康戦略としては「いかに心静かに暮らすべきか」「現在平穏な生活をしているのであれば、それをいかに維持してゆくか」ということに戦略のポイントをおく考えです。
 長年、社員の健康管理に携わっていて得た結論のひとつは、健康上の問題は「運動不足と食べ過ぎ」に集約されるようにおもいます。オーストラリ国民の70%はなんらかのスポーツを定期的におこなっているといいます。日本人の運動不足は仕事の忙しさと対をなしているように思われます。本来、勤勉で意欲的、生産的なのだが、運動する時間をとれなかったのです。そうであるならば、第一線を退いても「心静かに暮らす」気にならないひとも多いはずです。健康戦略として「年寄りの冷や水」といわれようと、少しでも前向きに過ごしてゆくことが大切と考えるかたもいるでしょう。
 その延長戦上には健康上の問題は心身を鍛え続けるということにあると気づかれるのではないでしょうか。

 それでは「鍛える」には具体的にどうすればよいか。
 体を鍛えるのに特に決まった方法はなく、持病などがあってもやはりそれなりに鍛えることが肝要かとおおもわれます。心臓病のひとはジムでの筋肉トレーニングやプール内の水中歩行すらすすめられる場合もあります。それでも心臓の発作予防に体を鍛えることは重要なのです。
 ウオーキング(散歩)とかダンベル体操は上半身、下半身を鍛えてゆくには手ごろな方法です。どうしても体を動かすことに気がすすまないかたはラジオ体操。とにかく体を鍛える気持ちをつかむことが大切です。
 本当に衰えたかたでは1日に五百歩でも千歩でもよい。まずからだを動かすことからはじめて、鍛えてゆくのだという気持ちを持ち続けましょう。
 それでは「心身を鍛える」の「心」のほうを鍛えるにはどうすればよいでしょう。これは一人ひとりが個性的に人生を歩んできているわけで、一律に述べることはむずかしそうです。それでも多くの人が共通に経験することがあります。それは親しいひとや、友人、知人との永遠の別れによる衝撃とか、年を重ねるに従い忍び寄ってくる寄る辺ない空虚な感じ、年金問題のような経済関係、慢性的な健康不安などです。
 簡単に対処できない問題ばかりでそれが中高年の健康にかかわる問題としてどっと押し寄せてきます。それなりに心の準備をしておくのは対処法のひとつでしょう。しかし、単に心構えするだけならば「鍛える」などということは必要ないのでは。
 こうしたことは前もって練習もできず、したがって鍛えて乗り越えるという問題でもなさそうです。それでも強い前向きの心を持てるならば、きっと困難を乗り越えて前へすすめるものと確信します。そうすると普段の生活で、心の奥底から前向きに過ごしてゆく努力が心を鍛えておく一環となるのではないでしょうか。心を鍛えるとは日々の営為を常に前向きに考えるということによって、少し近づけるのではないかと考える次第です。

 「鍛える」ということを中高年の健康戦略としてとりあげてみました。案外と日々の生活で無意識に実践しておられるかたも多いかもしれません。そんなことはわかりきっているよというかたもおるでしょう。これをお読みになって自分の進んでいる方向がはっきりしたというかたがおれば、大変に幸いと思う次第です。
(この項終わり、以下に続く)



共立荻野病院コラム一覧へ戻る