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2021年10月13日

中高年の健康戦略(43) 「薬」富士通川崎病院 顧問 行山康

 薬とは大変便利な、少量で手軽に健康状態を改善する手段です。薬の発達は近代産業社会の偉大な成果といえます。
 薬には経口薬、注射薬、塗り薬などの種類があり、さらに点眼薬、点鼻薬、吸入薬、噴霧薬など、使い方とか体に吸収される経路によってわけられます。ここではおもに服み薬(経口薬)を念頭において話をすすめますが、少量で体の状態をコントロールするという本質においてはほかの薬でもかわらずにあてはまります。

 薬は何歳まで服めばよいのかとかと質問されることがあります。
 簡単に答えが出る問題ではありませんが、中高年の健康戦略の上からは無視できない面もあります。一人ひとりの事情が異なるという面もあります。基本的に医者が決める問題でなく、本人が決めるべきことと考えますが、誰にとっても「死ぬまで元気」が理想でしょう。自分もそう考えます。「元気」は自分の日々の努力と社会システムのかかわりによって可能です。すなわち社会システムの一翼を担う医療は「元気」を維持する一部でもあります。そういう意味では、医療が必要であれば、生涯かかわってゆけることがのぞましいです。もちろん薬はその手段をになうことになります。

 ところでその薬ですが、大部分の内科の医者は薬に頼った治療をします。先端的医療は別として、どこか具合が悪くて医者にかかるといったら診察を受けて薬をもらうというのが一般的に思い浮かぶことでしょう。
 例えばのどが痛く、熱があるという風邪症状の場合、鎮痛解熱作用のある薬を処方されます。のどが痛く熱があるというからだの異常状態を調整するために薬はつかわれます。しかし治すとは病気の原因に迫った治療をすることだとしますと、風邪薬は病気を治す薬ではありません。すなわちのどの痛みと発熱をある程度改善するとしてもそれ以上に病因に迫るものではありません。
 かぜはウイルスが原因ということになっていますから、ウイルスの作用をそぐような治療が病気をなおすというのです。しかし通常は鎮痛解熱剤で対処します。風邪のウイルスは何百種類もあるしそれぞれに対応する薬はないので、痛み止めと解熱剤ということになるのです。
 風邪薬でかぜがなおったように見えるのは、のどの痛みとか発熱という異常状態を薬で調整しているうちに、体の免疫システムを中心とする内的な防衛機構が働いて、ウイルスに対する除去、不活化がおこなわれるためです。

 かぜのような急性の病気だけでなく、高血圧症、糖尿病、高脂血症などの慢性疾患でも事情はかわりません。血圧を下げる、血糖値を下げる、コレステロール値を適正にするなどの作用がある薬がつかわれますが、血圧が高い原因をなおしてしまうわけではありません、また糖尿病の血糖を上昇させる原因をなおすわけではありません。
 こうした薬はたいへん効果があるものですが、自分が医師になってから開発されたものも多くあります。コレステロールを下げる薬などは発売されて20年そこそこといったところです。健康保持に役立っている薬ではありますが、世にでてきて百年も経っていないのです。
 そして薬は日々進歩していますが、残念ながらまだ大部分の薬には病気をなおしてしまうような力はないということです。腎臓の病気とか肝臓の病気では特に病状を調整する薬もありません。世に使われている薬は何万種類もありますが、薬で肝臓病、腎臓病はなおらないのです。40年も前に先輩の高橋晄正先生が市販の強肝薬なるものがまったく科学的根拠がないといって問題視したことがありましたが現在でも同様の事情です。
 繰り返しますが、血圧が高かったり、糖尿病があると薬を飲んだり、注射をしたりするとき、これは病気を治しているのではなく、あたかも時刻に狂いを生じた時計のねじをまきなおしているようなもので、根本的に疾患をなしているわけではありません。
 だから一度、服み始めたら、そのよい状態を維持するために服み続けなければならないという事情になります。そこでまたいつまで服み続けなければならないかという疑問も生じるのです。
 すなわち大部分の薬は病気をなおさない。病気を治す薬はないということをまず頭に入れておく必要があります。

 薬については、健康戦略の上からも沢山、述べねばならないことがあります。健康診断の結果、治療をすすめられたが、自覚症状もなく、病院にかかるのもおっくうで本当に薬を服む必要があるのかとか、具合が悪くて病院を受診したのに検査ばかりで薬をだしてくれない、かぜをひいたので薬をもらいにきた、当たり前のことなのにあの医者はへんな顔をする、痛み止めをもらったがちっとも効かないので、もっと強い薬をといったら、それ以上はないといわれた、などなどです。これらのことはいずれ機会を改めて書くことにしましょう。
 ある米国人の20歳台の女性が咳、発熱などで受診しました。その女性は診察前に自分は風邪をひいて受診したのだが、肺炎になっているかどうかを診察してほしいといいました。診察して肺炎はなさそうだというと、わかりました、薬はいらない、後は自分で安静にしているといって帰ってゆきました。このかたは普通の風邪であれば、薬など服まなくとも対処できると見通しをたてているのです。
 日本人は薬好きといわれることが多いですが、病院の医師も患者の訴えに薬で対処使用という傾向があります。日本人は医者も患者も薬好きなのです。しかしここで紹介した米国人の女性のように、的確な判断と合理的(健康)行動をとることも必要ではないでしょうか。
(この項終わり、以下に続く)



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