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2022年1月11日

歌集 無形の重さ 波濤双書 眞崇華 風木舎


■Part1■


聞こえますか
コーヒーに入れたミルクの渦巻きで今日一日を占ってみる
聞こえますか雨にも風にも光にもことばがあるよ絶対あるよ
物音のしない土曜の昼下がり仰ぐ雲まで止まりている
幾つかのお手玉宙に舞い上げて得意気だった母 もういない
今は亡き母を鏡の中に見る日に日に母に近づく私

ためらいながら
春の風描いてみたく手のひらにピンクと白のパステル載せる
透き通るゼリーの中の桜花口に含みて春を確かむ
遠ざかる車の窓から幼児の手はばたく蝶のように消え行く
舞い降りる桜の花びらハンカチに包みて春を持ち帰り来る
動物園の象もキリンもふる里を忘れた振りしているのだろうか
水嵩の増えし水路を流れ来る幼児の傘ためらいながら
何気ない友のひとこと気に入りて手帳開きて確と書き込む

マジックベール
「おはよう」の幼き声が流れ来て朝餉の時が二拍子となる
照れてるようにひとつ青柿路の上秋の盛りを待てず落ちたり
何処からかビブラートかけて歌いつつコオロギいっぴき忍び込みたり
カタカナの「ノ」の字のような細き月不安な色を夜空に放つ
保護色で体やすめる生き物よわれも欲しいなマジックベール
ガラス器の絵柄が透けてみえるように君の心も見えるといいな
「オシャレだね」と言われて気付く右左違うピアスが取り澄ましてる

飛べないわたし
亡き父母へ届かぬメール打ちたくて青空の中にアドレス桀す
風ひとつ無い日はなぜか物悲しすべてが息を止めてるみたい
「ただいま」と幼き声が弾む時ピンクの空気がふわりと入りぬ
襟元に蝶のブローチ付けながら飛べないわたしを鏡に映す
人は人と心の中のわたくしと励まし合つて今日も過ごしぬ

夢の世界へ
われさきと競い合いては咲く桜春の息吹の満ちくる中に
亡き父母も彼岸桜を愛でていん天に向かいて小枝を揺する
ひっそりと見向きもされぬ吹き溜まりかさこそかさこそ木の葉の会議
甘酸っぱい蜜柑の香りが風にのり初夏の訪れ知らせてくれる
天からの伝言あるや雨の音をじっと聴き入る母の命日
公園の片隅で寝るホームレス丸めた背に枯れ葉幾ひら
蝶の羽が震えるようにみどり児は瞼閉じつつ夢の世界へ
プーさんのおくるみの中のみどり児は小熊のように埋もれて眠る
いつもわれを見守りいるや亡母の声 左の耳の後ろに聞けり
亡き母の手巻きの時計わが腕で共に生きんと「時」刻みおり


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