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2022年1月20日

歌集 無形の重さ 波濤双書 眞崇華 風木舎


■Part2■


あつ・プー
師走の街にクリスマスの音が駆け巡り歩む早さがモデラートになる
五円十円の駄菓子並べる友の店消えることなき子供の世界
「あつ・プー」と唇揺らすみどり児の白き乳歯の現れを待つ
しっかりと腕に摑まり眠る児の指ほどけゆく 眠りと共に
指を吸い寝入るみどり児夢路へと眼りの天使が運びてゆくよ

蘇る
家内まで木蓮の香を招びたくてひねもす窓を開け放しおく
埃まみれの卓袱台出せば蘇る父・母・私の坐りし位置が
強風に煽られ絡む吹き流し 今日のわたしの心のようだ
右へ左へ泳ぐ金魚の水槽にわれの知らない楽園がある
大空に母という字を散らばせて十三回忌の母偲びおり
命日だから母の面影偲びつつそっと供える白百合の花
亡き父を追うようにして逝きし母いつでも二人は私を見ている
われを呼ぶハスキーな声懐かしく遺影の母と暫し語らう

わかるといいな
傘を打つ雨音に聴く雨言葉わかるといいな 耳敲てる
編み呉れし細かき模様のコースタ—紡いだ時間が静かに潜む
一本のキャンドルの炎がみどり児の瞳に揺れて誕生日の夜
戦争を知らぬわたしが幼児に絵本開きて怖さを語る
枯れ葉のような蟬の脱け殻風に舞い砕けていくや人目に触れず
亡き母と交わしし言葉夢路よりこぼれてしばし心を満たす
どうしたの跳べぬ螳螂路の上で風の流れに身を任せいる

静もりて
解体を待つばかりの家静もりて労るように冬日が包む
がらんどうとなりしわが家の軒下で南部風鈴静かに鳴れり
ひと息に儀式の中で打ち降ろすハンマーの音がわが胸割る
亡き父母の建てしわが家の解体の埃の中に想い出が舞う
何事も過ぎれば遠き思い出と化して心に埋め込まれゆく
ワイパーに突然弾き飛ばされた雨粒 涙のように流れる
水溜りに映る白雲乱しつつ機敏に泳ぐアメンボ五匹
青空に風の創りし鱗雲点描画家の描きしょうに

空なる椅子
逝きし友を偲びて集うティータイム 空なる椅子を中程に置き
亡き友を偲ばんとして在りし日のスナップ写真を持ち寄り集う
リアリティーに水滴つけしバラの造花悲しみ隠す笑顔に似ている
トタン打つ雨粒の音はポロネーズ心の渇きを潤してゆく
引き続く重き心を晴らさんと伸ばしいし髪二十センチ切る
土の中に孵化の日永く待ち続け蟬の一生は花火のごとし
空蟬を置き去りにして飛び立てる蟬の行く方に自由はありや
乾噪せし路上の蟬の亡骸を踏まないように幼児は跨ぐ


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