2022年2月24日
歌集 無形の重さ 波濤双書 眞崇華 風木舎
■Part4■
空仰ぎつつ
人生の片道切符を握り締め新たな年の旅に出かけん
新年の成したき事を徒然にペンを走らす真つ白きノート
元旦を祝いいるのか雪の精 軽きステップ踏むように舞う
人生の欠片を君は持ったまま挨拶なしに逝きてしまえり
君の死後も刻む秒針変りなく素知らぬ音を立て続けいる
どうしても信じられない君の死もひととせ経てば認められるや
想像の世界で遊ぶシナリオの書き手は私 空仰ぎつつ
あなたはだあれ
探検心を持ちて伸びゆく蔓草は断りもなく板垣を越す
本当の平等の意味は「不揃いの数字」の上に横座りする
炎天下に舞い降りて来し紅小灰蝶だいだい色の羽を閉じつつ
先の見えぬ自分探しの人生を勘で舵取り手さぐりしている
真実のわれを見たくて覗き込む鏡の中の「あなたはだあれ」
いち日を確かめるよう過ごしたくカレンダーの横に吊るす日めくり
はぎとりし昨日の日付けの紙透かしそっと覗けり昨日の私
宝捜しのようにナイフで削りゆく油絵の具の冴ゆる重なり
「静」と「動」
冬空にダークグレーの雲満ちて雨の滴が落ち始め来る
冬枯れの枝に止まりし鳥の位置あるかも知れぬ鳥の性格
静いをして来し風か並びいる洗濯物が乱されている
断捨離のことばをそっと脇に置き物にまつわる思い出紡ぐ
不要品と勝手に決めて捨て去れば「まだ使えるよ」と声が聞こえる
溜息は心の底の叫びだと埋もれいるものあれこれ探る
人知れず心に潜む「静」と「動」心操る影武者ならん
三角や四角に歪みいる仲間会話が角を削りてゆくよ
生命のバトン
敷き詰めし小石の間のすみれ花戸惑いながら風に揺れおり
答のない友の定義を探りつつサイダーの泡の行方見守る
着飾りても着飾らなくても人格がほのかに流る繊維の間から
去年よりも真白き花弁の鉄線が朽ちし籬に勢いて這う
薔薇の花を守ろうとしてバラの棘「手折らないで」の言葉秘め持つ
沖縄戦 生き残りし乙女ら八十路過ぎ今も語るは戦争体験
終戦後に芽吹きし木々も繁りゆき木陰の下に悲劇が眠る
今もなお声無き声で叫びいる逝きし人らの生命の捨石
戦争を知らぬからこそ戦争を識りて伝えん 戦争実話
遺伝子を受けし種たち花咲かせ生命のバトンをまた渡しゆく
秋風に舞う
亡き人の別れに触れし両頰の冷たさ今もわが掌に残る
彼岸と此岸を結ぶかの如き虹の橋渡りて来るや亡き父と母
各々が愛という語を語る時声のトーンが半音上がる
幼児の丸き息吹を閉じ込めしピンクの風船秋風に舞う
図書館の本の頁に折り線の跡がくっきり 痛がっている
絵手紙の柿の実枠より食み出させ友は知らせる実りの秋を
目に見えぬ風は確かに遊びいる揺れる柿の葉コスモスの花
入院中の友へ送らん秋便り綺麗な落葉を集めてラップ