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2022年3月10日

歌集 無形の重さ 波濤双書 眞崇華 風木舎


■Part6■


輝きスイッチ
鏡の中の偽りの像見つめつつ決して見えない自分を探る
遠き日の学び舎見んと立ち寄れば更地となりて冬日が遊ぶ
学友も月日と共に各々の好みの花をおのおの咲かす
何事も終焉スタイルそれぞれの地上に別れを告げつつ逝くや
貴重なる時間を大事に逢う友の行き交う土産はお話みやげ
「さよなら」と振り向きながら行く友の軽き靴音デクレッシェンド
輝きスイッチあるやも知れぬ胸中を探りて点けん自分のために

無言でかたる
指先が赤くなるほど幼児は莓摘みつつハウスに遊ぶ
ヘレン・ケラーの来園記念の写真見てわれも目を閉じ莓を摘む
目覚しの合図と共に今日もまた真白きページに色を付けゆく
亡き母の友と語りて知る母は私の知らぬ水色の母
何処から飛ばされ来しやタンポポが墓石の裏に隠れて咲きぬ
人格の無き文字並ぶメールにもその人だけのじんかくが匂う
疲れいる時でも時間は容赦無く私を乗せて黙って進む
掛替えの無い人生の生き方を書物は語る無言でかたる
何気無く遺影の父母と目が合えば私を諭す声が聞こえる
眠らんと思えば更に細胞は暗闇の中で鬼ごっこする
気が付けば疲れ果てしや細胞は明日の出番を待ちつつ低る

意識もちつつ
仲間達の生き方の色が変りゆく環境・体調・思わくなどで
このままでよいかと我に問いながら時には歩を止め行く道探る
刻々と生命の時間こぼれゆく意識持ちつつ時間を使わん
歩みいる道の他にも本当の歩みたき道あるやも知れぬ
道標の無き人生の行く道にわれは探さん「しあわせの花」
人生を行きつ戻りつ出来るなら父母と暮らせし頃に帰したい
厳かに芽吹きの時の到来を落葉の樹々は葉を落として待つ
眠りいる五感にスイッチ入れながら育ててゆかんわが感性を
待つよりも出掛けて摑む確かさを地層のように積み重ねたい
末期癌と戦っている友なるにいささかも見せず死への恐怖を
ホームレスになりし友いて両の手のビニール袋が不安を誘う

全てをゆだね
飼犬の亡骸の上に菜の花を供えし指先冷たさ感ず
飼犬が死してふた月今もなお春陽受けつつ眠る犬小屋
幼児は瞬く星を見上げては飼犬の星探しておりぬ
消毒されし空地に来ている鳩・雀「突くな逃げて遊んじやだめよ」
雨上がりのエノキの幹にかたつむり全てをゆだねてお昼寝タイム
吹く風と戯れるように鳴る風鈴出会いしことを喜びながら
風鈴に挨拶しつつ入り来し姿無き風家内を通る

偏見の眼鏡
飾り気なき自分の気持を覗いてみたく心丸ごと投げ出してみる
報告は自慢話じゃありません聞き手の心は人それぞれで
何事も知らぬからこそ偏見の眼鏡で眺む諸々のこと
生ききった蟬の亡骸にどこかから蟻が集まり弔いして八る
死してなお蟬の羽先は鋭くて誇りに満ちた生き様を見る
過ぎし夏を思い出させる空蟬が秋の陽射しで琥珀に光る
外出の予定無き日は完全にわたしは自由 気ままな時間
平等に手にする時間それぞれの生き方の上で不平等となる


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